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第一話 マックになりたかったロボ

 「あ〜腹へった、今日のメシは何だろな〜、うまいキバン、うまいキバン、毎日食べたい、うまいキバン〜」

 と歌いながら入ってきたのは、スルーである。彼は、キバーン番号で言うと三番目に造られた。ノリが軽く、いい加減で、あまり性格はよろしくない。設定年齢が25歳で私と同い年というのが気に入らない。
「ボクもお腹空いたよ〜、グラフィックカードだといいなァ」

 こちらは、二番目に造られた通称カラーである。彼は17歳に設定されており、なかなか明るい好少年……いや好ロボだ。二人は食卓に着くと皿の上に盛られたパーツを見た。

「ケッ、またメモリーかよ、しかも8MBだぜ」

 毒づいたのはスルーだ。

「贅沢を言うな。これを手に入れるのだって、やっとだったんだぞ。そうそうマザーボードやグラフィックカードが手に入ると思うなッ」
 私は、スルーに一瞥をくれてやり、自分の分のメモリを取り分けた。

「おっ、なんでぇ、マザーボードがあるじゃねぇか。さてはシルバ、てめぇ、一人でガメろうとしてやがるな、よこせよ」

 スルーは私の背後の段ボール箱に入ってたマザーボードを見つけて言った。

「……よく見るがいい。これはマック用だ。私たちには食べられない」

「なんでぇ、同ンなじシリコン系食品じゃねーか、食えないことはないだろう、食ってやる、ガシガシガシッ」

「あっ、ダメだよ、アレルギーが出るよぉ〜」

 カラーと私が止めるのも聞かずに、スルーは、マックのマザーボードを食べてしまった。
「うぃっぷ。やっぱメモリーと違って食い応えがあるぜ、う〜食った食った」

「後で、どうなっても私は知らないぞ。一応、消化剤でも飲んでおけ」

「フフン、そんなヤワな体じゃねぇのさ」

 スルーはそういうと、椅子にふんぞり返った。

「スルーは、i-Macに似てるから、案外、大丈夫なのかなぁ。まぁ、いいや。ねぇ、シルバ、ほら、こうしてメモリの上に、クリーニングリキッドをかけると、なかなかいけるよ」

 カラーはとても良い子だ。

「お、そうすると、なかなかウマソーじゃねーか」

「え〜まだ食べるのぉ」

「うるせぇ、よこせよ」

 スルーは、メモリーを2つ3つ口に放り込むと、ガシャガシャと下品な音をたてた。
「ところで、スルー。お前、C区画の掃除は終わったのか? 近頃どうも効率が悪いようだが?」

「何言ってやがる。効率が悪いのは、ぼうやのせいじゃねーか」

 スルーはカラーを肘で突っつきながら言った。

「そんなぁ、僕のせい?」

「お前の扱うファイルがデカすぎるんだよ、つまんねぇ画像なんざ消しちまえよ」

「ダメだよ、博士からお預かりしたものなんだよ、勝手に消せるわけないでしょおっ」

「よく言ったな、カラー。お前は成すべきことをよく承知している。少しは見習ったらどうだ、スルー」

「フン」

「いいか、これからすぐに掃除しろ。わかったな」
「ケッ、オレに命令するんじゃねぇ……う……う、うぃっぷ……」

「スルー……、どうしたの?」

「なんでもねぇ、ち、ちょっと食い過ぎただけ……うぅぅ」

 スルーの顔色が悪い……いや、顔色はロボなので変わるべくはないのだが、なんというか、そこはそれ、そういう感じ……ということだ。

「さっきのマザーボードの拒絶反応だ……」

「スルー、吐いてしまうんだよ、早くッ」

 カラーはスルーの背中をさすりながら言った。

「い、いやだッ」

「何を言ってるんだ、吐け」

 私もスルーの目の前に洗面器を突きつけながら言った。
「い……いやだ……マックのマザーがオレの体に合わないなんてことない。オレは……オレは……」

「ばかやろうッ。オレたちは窓機ベースで作られたロボ、マックにはなれないんだッ」

「そうだよ、スルー。窓機でもいいじゃない。帝国の犬だっていう人もいるけど、そんなの偏見だよ。マックなんか顔だけじゃないか。しょっちょうバックレるって、『暁務報告』で噂されてたしっ」

「その通りだ。お前は、音源ボードを強化されたMIDIなロボだ。それでいいじゃないか……」

「う……ゲボゲボゲボ……ッ。……う、ううう」
スルーは未消化のマザーボードをはき出したが、俯いたまま顔をあげない。

「元気出してよ……スルー……、ね」

「顔をあげろよ……ほら、あの夕日に向かってダッシュだ!」

 私はスルーの肩に手を置いた。

「バカ。ここは地下ラボの中だぜ、どこに夕日なんかある……あ!」

 スルーは毒づきながら顔をあげた。そして目の前にある夕日に驚いた。

「キレイでしょう……大きい画像もたまには役に立つよね。同人の表紙にだけじゃなくってさ」
カラーが、スクリーンに映し出す夕日は美しかった。その時、オルゴールの音色が聞こえてきた。

   ユウヤケ コヤケ ノ アカトンボ……

「スルー……おまえ……こんな澄んだ音色を出せたのか……」

 私たち三人を優しい雰囲気が包み込む……だが、その時ッ。

「あ……」

「フリーズしたぁぁ〜、シ、シルバ……たすけて〜」

 スルーとカラーは固まってしまった。

「……だから、ちゃんとデフラグは定期的にしておけと言っただろう……まったく、世話の焼ける連中だ」
私は彼らの背中にあるCtrl+Alt+Delを押した。が反応なし。仕方なしにリセットボタンを押した。
 彼らの復帰を待つ間、束の間の静けさ。

(博士……私たちはこんな風になんとかやっています。早くお戻りください……)

 私は祈りを捧げると、博士の消息を探るために、いつものようにネットへとアクセスしたのだった……。
 


キバーン 第一話 終

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