CLAVIS SIDE 1

 ウトウトと微睡む私の頭の上を、声の固まりが飛んでゆく。五月蠅い……。

「え〜っ、じゃあ、ルヴァ様は何をなさったんですかぁ?」
 (頭から声を出すな、マルセル……)

「え〜私は図書館の司書をしましたよ〜」
(もう少し早く喋れんのか、ルヴァ)

「なんでぇ、それじゃ普段と変わんねーじゃないのか? そんなの修行と言えねーんじゃないのかよ?」
(ゼフェル……お前の言葉遣いは……まぁいい)

「ジュリアス様はそれで何をなさったんですかっ?」
(ランディ、お前はどうしてそういつも声がでかい……)

「ちょうどその頃、主星では各惑星の代表によるサミットが開催されていて、私は主星と母星系第二地区第三太陽系第五惑星ディラックの同時通訳として働いたのだ」
(ふん、相変わらずなんか偉そうだな……)

「さすがです。ジュリアス様に相応しい知的なお仕事ですね」
(抜かりのないことだ、オスカー)

「そうですね……で、クラヴィス様はどんなお仕事を?」
(リュミエール……私に振るな……え?)

 リュミエールの発言に皆が一斉に私を見た。
(な、なんだというのだ?)
 皆は私が何かをいうのを待っている。オリヴィエがニヤリ楽しそうに笑い、何かを言おうとしたその時……。

「ああっ、そ、そなたっ!」
 とジュリアスが私に向かってビシッと指を突きつけた。

「う……」
 私は皆の会話の断片から今、この集いの間で何の話がなされているかを頭の中で整理した。ええっと……。
(どうやら『デッチボウコウ』の事らしい……ま、まずい……)

 ジュリアスは私に人差し指を突きつけたまま、私の間近まで躙り寄り言った。
「そなたはまだ『デッチボウコウ』を終えておらぬはずだっ。ちょうどあの頃、女王交代があり、ゴタゴタしていて、その上、そなたは体の具合が悪かったので中止になったはずっ。迂闊であった。そなたにまんまとしてやられたわッ! 私とした事がこのような大事を見逃していたとは……っ、クッ」
(ジ、ジュリアス、その程度の事で屈辱に喘ぐ事もあるまい……)

「い、いや、私はかって辻占い師として働いた……ような」
 と私は口からでまかせをボソボソと言った。

「いい加減な嘘はよせ。このジュリアス、そなたが修行を終了していない証拠をきっと探し出してくれよう。過去の記録簿を見ればわかる事だっ」
 ジュリアスがそう言うと、ゼフェルが楽しそうに言った。

「よ〜なんか知らね〜けど、守護聖の過去の記録なら、こないだデータベース化したから全部、端末から引き出せるぜ、ほら」
 ゼフェルは喜々としてノート型の端末をカシャカシャといじくった。

「おお、でかしたぞ、ゼフェル。ではクラヴィスの記録を引き出してくれよう!」
 ジュリアスは意気揚々と私の名を端末に打ち込んで、してやったりとばかり画面から顔をあげた。

「見よ!『デッチボウコウ』の欄に済みと書いておらぬわ!」

「あ、あの入力ミスではありませんか?……」
 とリュミエールが小声で助け船を出してくれたが、その横でまたしてもゼフェルが言った。
「そりゃないぜ、記録簿をまんまスキャンしてデータ化したし、三回もチェックかけたからな、へっへっへ」
(こんな時だけきっちりするな!)

「ねぇ、もういいんじゃないの? もともと『デッチボウコウ』は十八歳未満の若い守護聖に課せられたいわば見聞を広めるためのものでしょ? ワタシだってやってないし、今更クラヴィスに、下界で働けったってさぁ」
 と言ってくれたのはオリヴィエだ。
(かねてよりなかなか人の心のわかった男だと思っていたぞ)

「オリヴィエは守護聖になったのが二十の時だったからだろう。俺も十八で守護聖になったから『デッチボウコウ』はしなかったが、十七で守護聖になったリュミエールはしたんだろう?」
(おのれオスカーどこまでもっ……)

「はい、わたくしは主星の美術館で学芸員のお仕事を……」
 申し訳なさそうにそう言うと、リュミエールは俯いた。
(お前は悪くないぞ、リュミエール)

「クラヴィスだけが例外ってのは納得いかねーぜ、なぁ。俺も来年は『デッチボウコウ』に行かねーとダメだっつーんだし、ここはひとつ先輩にビシッとしたとこ見せてもらいたいもんだぜ〜」
(ゼフェル……お前が私の館の庭園で昼寝をするのはゆるしてやろうと思っていたが、今後一切お断りだぞ)

 皆の視線が私に注目する中、私は立ち上がった。
「どこに行くっ、クラヴィスっ。話は終わってはいない、これから惑星育成進捗会議なのだぞっ」

 ジュリアスの声に私は振り向かずに言った。
「好きにせよ……」
 パタン……とドアを閉めて私はノロノロと自分の執務室に戻った。

★NEXT CLAVIS SIDE

 



一方その頃ランディは……★ZAPPING RANDY SIDE