第３章 「ま、まだ生きてるってば……」
★城塞島・四階
元来た薄暗いむき出しのコンクリート作りの階段を先に下に降りようとしたランディとゼフェルは、さらに下に続いているはずの階段が分厚い扉によって閉鎖されているのを知った。城塞島は五階建てになっている。最上階はトムサの部屋があり、四、三階はヒジカタの部屋やルヴァが閉じこめられていた特別室などがあり、この島がトムサのモノになってから手を加えたものである。二階と一階は、元の城塞島の壁や床がむき出しのままの粗末な岩作りになっている。階段はこの城塞島のほぼ中央にひとつだけ。
「ダメです、ビクしもしません〜、ちくしょう」
ランディはその鉄製の扉を叩きながら叫ぶ。
「別に降りるところがこの階のどこかにあるかも知れない」
オスカーは皆を制しながら、四階の廊下に飛び出すと敵がいないか牽制しつつ、辺りを見回した。カーブになっていて先まで見渡せぬ廊下の陰にルマクトーの手下の気配を感じ取ったオスカーは、そろりと鞘から剣を抜く。壁に背中をつけながら、隠れている相手に向かい近づく。剣の表面に相手の影がチラリと映り、今まさに飛び出してこようという瞬間、先にオスカーは剣を振り上げた。
「やぁーーーッ！」
「うわぁっ」
オスカーの一太刀が相手の腹を打つ。
「安心しろ、殺してはいない、刃背打ちだ」
オスカーはそう言うと、後に控えていた他の守護聖たちを振り返った。
「か、かっこいい……」
憧れの眼差しでランディはオスカーを見ている。ジュリアスは頼もしい部下の姿に満足そうに微笑んでいる。
（決まった……な）
とオスカーが思ったその瞬間、オスカーの背後でドドドド〜という地響きがした。ルマクトーの手下がそれぞれの武器を持ち、押し寄せてくる。
「オスカー！ 【サラマンダー】をっ。南無水龍召還！」
オスカーの背後からリュミエールが【リヴァイアサン】を放とうとした。
「小癪なヤツらめ！ ここは俺たちに任せてジュリアス様たちは下の階への階段を探して下さい！」
オスカーはジュリアスたちに声をかけるとリュミエールとともに手下の前に立ちはだかった。
「よし、まかせたぞ、オスカー。我々は反対側に回って階段を探してみよう」
ジュリアスたちはオスカーとリュミエールから離れて、階下に続く階段を探すべく走った。
「ジュリアス様っ、非常階段があります！」
前を走っていたランディは廊下の角に小さな扉を見つけて叫んだ。非常階段を示す緑色のマークのついた扉をランディは力まかせに開けた。体を屈めてようやく、すり抜けられる狭いドアの向こうに階下に続く細い階段がある。ジュリアスたちは順に階段を降りた。が、降りた階でもまた下の階に続くはずの非常階段は鉄の扉の向こうに閉ざされている。
「おのれ、ルマクトー。私たちがすんなり降りられないように小賢しい事を」
ジュリアスは鉄製の扉がビクともしない事を確かめた。
「じゃ、今度もこの三階のフロアのどっかに階下に続く階段はあるって事よね」
「たぶん……この城塞島には二つ階段があるようだ。ひとつは始めに登ってきた中央にある正規の階段、そして今使った非常階段」
クラヴィスはそう呟くと、先陣きって三階の廊下に飛び出した。
「今度は中央の階段から降りられるかもって事だな〜」
ゼフェルがその後に続く。その時、また階上で爆音が響いた。ズンと突き上げるような振動が守護聖たちをふらつかせた。続いてもう一度。轟音。
「今度のは大きい。リュミエールとオスカーは無事でしょうか〜」
不安そうに一番後にいたルヴァは振り返った。
「大丈夫だよ……きっと。あの二人は強いからね。ワタシたちも急ごう」
オリヴィエはそう言うと、履いていた踵の高いサンダルを脱ぎ捨てた。
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★ 表 紙 ★