「うわっ、ちょっと! ぼん、ぼん、こっちおいで」

 マルセルに向かってトムサは手招きした。

「え? 僕?」

「そやがな、こっちおいで、ぼん」

「僕、ボンって名前じゃないけど……」

 マルセルはキョトンとして言った。

「あーマルセル、ボンというのは坊ちゃんって意味ですよ」

 ルヴァがすかさず説明する。

「坊ちゃん! そんな言い方失礼だなっ」

「ごめんな〜、怒らんといてぇな〜、ぼんは幾つ? 十四、五か?」

「十四歳ですけど、何かっ」

「ええなぁ、二年ほど、みっちり仕込んだら、こら一生モンやがな〜。あ、アンタもうええわ、こっちのぼんにするさかい」

 トムサはそう言うと、素早くマルセルを抱きしめ、オリヴィエをシッシッと追い払う真似をした。

「何なのさ〜っ、なんか納得できない〜」

 オリヴィエはリュミエールの肩にもたれ掛かって悔しがっている。思わずリュミエールはオリヴィエの頭をヨシヨシと撫でた。

「離して〜」

 マルセルはトムサの腕から逃れようとするが、体格差でどうしようもない。

「ぼん、ちょっと静かにしててや」

 トムサはそう言うと、マルセルの口元に何かをあてがった。

「う……く……」

 不意をつけかれたマルセルは一瞬呻くと、そのままグッタリとトムサの腕の中に倒れ込んだ。

「ちょっと睡眠薬嗅いでもろただけや、大切な原石を傷つけるような真似はせぇへんて。ああ、ホンマに可愛いなぁ、この子」

 トムサは意識を失っているマルセルを愛おしそうな目で見つめた。トムサの涼しい瞳は、まだ線に丸さの残るマルセルの頬から顎にかけてをねっとりと舐めるように這う。

「綺麗……絵になるお耽美さだね〜う〜ん、ちょっちクラっとしたかも」

「感心している場合ではありませんよ、オリヴィエ〜。あ〜トムサさん、マルセルにそんな事しないで下さい〜まだ十四歳なんですよ〜」

 ルヴァはオロオロしながら言う。

「ふざけるのはそこまでにしてもらおう。マルセルを離し、ただちにルヴァに取り付けた装置を外すのだ。そうすれば命だけは助けてやってもよい。そなたの兄のように私が【ホーリー・シャイニング・アタック】を放ってやろう……白色白光の我が誇り高きサクリアがその汚れた魂を浄化し、いかなる悪にも決して屈服する事のない人間へとそなたは生まれ変わるのだ!」

 ジュリアスはトムサのペースに巻き込まれている他の守護聖たちを押し退けて堂々と言い放った。

「うわ、そんな、ごっつう臭っさいセリフ、シラフでツラツラとよう言うなぁ〜」

 トムサは感心しながら言った。

「く、臭いだとぅ!」

 ジュリアスが眉間に皺を寄せ、怒りまくっている横でリュミエールはボソッと呟いた。

「今日の聖地ランチのボンゴレはちょっとガーリック効きすぎでしたね……」

「リュミエール……アンタって時々ルヴァ以上のボケかますね……」

 ジュリアスはオリヴィエとリュミエールをキッと睨み付けると、両手をあげてサクリアをトムサに向けて放とうとした。

「もはや聞く耳もたぬわ、成敗してくれる!」

「このお人もイラチやなぁ〜、アンタのサクリアとやらが直撃する前に、このスイッチ押しまっせ。ふふふ……」

「クッ、おのれっ、私の事をイタチなどとっ!」

「ジュリアス〜、イタチではなくてイラチですよ〜、せっかち、って事です〜」

 ルヴァの説明にジュリアスはよけい苛つきながらトムサを睨み付ける。

「お楽しみはこれからや。俺は今から、このビルの一階にあるコントロールルームで待ってるさかい、アンタらは会いに来てんか。時間は、あの太陽が水平線に消えるまでや。それを過ぎたら、俺はこのスイッチを押させてもらいまっさ。それから、このぼんも好きにさせてもらう。日没までに辿り着いたモンの勝ち……どや?」

「おのれ、ありがちな展開をっ」

「どうせ、途中に階にはトラップや武装した部下を配置させているんだろう!」

 オスカーは軽蔑したように言った。

「当たり前やがな」

「階ごとにラスボスは?」

 とゼフェルが言い終わらないうちにランディがゼフェルの頭をはたいた。

「う……痛ってぇ、お約束ぢゃねーかよ」

「ラスボスなんかおらへんがな〜。ま、とにかく頑張ってここから脱出する事やな。あ、ちょっと待ってや」とトムサは言うと、机の上にあるマイクのスイッチを入れた。

 


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