★城塞島・最上階

 むき出しのコンクリートの階段が途絶え、目の前が急に明るくなった。階段を上がりきったそこは展望台のようなホールになっており、大きな窓が作ってあった。窓の向こうには鈍い色の初冬の海が広がっている。まだ昼間だと言うのに暗雲の立ちこめた灰色の空と沖から次々と迫り来る波頭は、これから守護聖たちに襲いかかる受難を暗示しているかのようだった。

 

 ヒジカタはその窓の向かい側のドアをノックし中に入った。守護聖たちも後に続く。先ほどと同じように海が見えるように作られた部屋。ヒジカタの部屋のように都会の会社の重役室のような作りになっている。壁際にやはり黒服の部下が銃を片手にビシッと整列して立っている。手前の応接セットのソファの上に、ルヴァがしょんぼりと腰掛けていた。

「ジュリアス〜、クラヴィス〜 すみません、こんな事になってしまって〜、こんなモノまで取り付けられてしまって〜」

 部屋に入ってきたのがジュリアスたちだと判るとルヴァは申し訳なさそうに駆け寄り、腕の装置を見せた。

「招待に預かり参上いたした。用件を述べよ」

 ルヴァを自分たちの側に招き入れるとジュリアスは、大きな黒革の椅子に座ったまま、守護聖たちに背を向けて窓の外を見ていたトムサに言った。クルリと椅子が回転し、主星マフィアのボスがこちらを向いた。

 その男、トムサ・ルマクトーは黒革の椅子にゆったりと凭れて足を組み座っていた。適度に焼けた肌、均整のとれた骨格、歳は三十前後か。ダークブラウンの目は涼しげで、眉から鼻にかけての線がはっきりした顔立ち、もって生まれた美しさに金に証せて磨き上げた隙のない身のこなしが、匂い立つような男の色気を醸し出している。

「うわぁ……綺麗な男」

 とオリヴィエは思わず呟いた。

「そなたがトムサ・ルマクトーか。ルヴァが世話になったようだな。我々を守護聖と知りつつ直々に呼び出すとは不遜な事とは思わぬか? 場合によってはいかようにもしてくれようぞ」

 ジュリアスは圧倒的なまでに高飛車な態度で言った。トムサはジュリアスの神々しいまでの美しさに一瞬、息を飲んだが、直ぐさま冷酷そうな微笑みを湛えた表情に戻り、ゆっくりと立ち上がる。ジュリアスほどではないが、やはり長身である。守護聖と並んでも引けを取らない体格と美しさである。トムサはゆっくりとジュリアスの前に歩み出たが、チラリとジュリアスの後にいたオリヴィエを見ると視線がそこに釘付けになった。

「うわっ、むっちゃキレイな守護聖やんか〜」

 とトムサはオリヴィエの手を取って言った。深いうっとりするようないい声である。

「え? 何? 何て言ったの? ルヴァ?」

 オリヴィエはキョトンとしてルヴァを見た。

 


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