★城塞島
Cゲートをくぐると天井まで届く大きな扉がある。ジュリアスはその扉を開けた。中は暗闇である。最後に扉の中に入ったリュミエールは扉をきっちりと閉めた。そのとたん暗闇の向こう側に光さす出口が出現した。いつの女王の御世に誰か作ったものかも知れぬ次元回廊の不思議をその身に感じながら、守護聖たちは無言でその出口に向かってほんの数歩移動した。まばゆい光が守護聖たちを照らす。うち寄せる波の音、直ぐ側に広がる海に守護聖たちは圧倒された。目が慣れると、守護聖たちはそこがそれほど良い天気ではない事に気づいた。分厚い灰色の雲が空を覆い、海の色も鈍い群青色をしている。時間的には午後二時過ぎといったところだったが、微かな太陽が雲の中に隠れてしまうと今にも闇の帳を降ろしてしまいそうな空の色に変わった。
「少し寒い……ね」
マルセルは人気のない砂浜を見つめてポツリと言った。
「本当、ワタシたちの衣装じゃ少し寒いね……慌ててたからこっちの季節の事まで考えなかったよ〜、ゼフェル、エアーシールド持ってない?」
オリヴィエはゼフェルに尋ねた。エアーシールドという小さな装置を作動させると体の回りに特殊な空気の層を発生させる。その中に入れば数時間は快適な環境下におかれるわけだ。
「えっと、あったっけ……」
ゼフェルはポケットの中をまさぐり、小さな装置を取り出した。
「あ、違う、持ってきてない……でもこれ、ジュリアスに渡しとくか」
「何なのだ? これは」
ジュリアスはゼフェルから手渡された小さな装置を見つめつつ尋ねた。
「【どこでも次元回廊】だぜ」
ゼフェルは得意気に鼻の下をちょっと擦って言った。
「?」
「この装置があれば、どこにいても次元回廊が開くんだ」
「そんなの今までの研究院から配布されてる装置と同じじゃないの?」
とオリヴィエ言った。
「従来のものはさ、信号を研究院に送り、それを受信した研究院の担当が、回廊の設定をしてオープンする仕組みだろ。回りに危険物がないかとか、人気の少ないところとか、いろいろ制約があっただろ? でもよー、この【どこでも次元回廊】はどこのどんな場所にいても聖地直結の次元回廊が開くんだ。王立研究院の判断を待たずにな。でも、それだけ危険度が高いんだ。ヘタすると回りのモノを異次元空間に取り込んでブッ潰しちまうんだ、改良しなくちゃなんねーんだけど、万が一の時の脱出用にと思って作って見たんだけど」
「そうか、万が一のな……。では、これはマルセル、そなたが持っているとよい」
「え、僕が? でもこれはジュリアス様が持っていらっしゃった方がいいと思うんですけど」
マルセルは手を引っ込めて言った。
「そなたが一番年少だ。この中では一番長く生きる義務がある」
ジュリアスはマルセルの手を取ると、その装置を持たせた。
「権利でなく義務だ、わかるな、マルセル」
(こういう時のジュリアス様の瞳は殊の外優しいんだ……)
とマルセルは思いながら深く頷き、素直にそれを受け取った。
「行こう、どうやらあれが招待されている場所らしい」
ジュリアスが指し示したそこには城塞島が待っていた。今はまだ引き潮で海中に没する前の。
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★ 表 紙 ★