「ルヴァ……ちょっと聞くが……」と先ほどからガラスの向こうのヘリをしげしげと眺めていたクラヴィスがこちらを向き直って言った。

「なんでしょうか?」

「このヘリは誰が組み立てた?」とクラヴィスが質問すると、全員がハッとしてルヴァを見た。

「だ、誰ってそれはそのう……」

「そなたは科学の分野に置いても素晴らしい知識の持ち主ではあるがそれは机上のもの、このようなメカを組立られるのは……」とジュリアスが言う。

「はぁ。わかってしまいましたか……仕方ないですね、出ていらっしゃい、ゼフェル」とルヴァが溜息まじりに言うと、備え付けられたロッカーの中から「へへへ……」と頭を掻きながらゼフェルが現れた。

「言っとくけど、ルヴァがオレにバラしたんぢゃないぜっ」

「サクリア仮面にパープルが参加して間もない頃、ゼフェルから、サクリア仮面の正体を言われた時には驚きましたよ。証拠まで突きつけられては私も否定できませんでした」

とルヴァは項垂れる。

「証拠だと?」ジュリアスはゼフェルに尋ねる。

「新聞や雑誌の記事から、サクリア仮面の体型データを取って示し合わせたんだ」

 ゼフェルはコンピュータの画面にサクリア仮面ゴールドの画像データを映す。例の主星タイムズとタイアップしたゴールドのデビュー時の写真だ。

「見てろよ」とゼフェルがキーを押すと、サクリア仮面ゴールドの写真が足から順にワイヤーフレームで表示されてゆく。足の先から頭の先まで、細かな数字が割り出され表示された後、次にジュリアスの全身写真が表示され、同じようにフレーム化されてゆく。ゴールドのものとジュリアスの画像が二つ、左右に表示され、次第に重なってゆく。やがてそれは寸分の狂いなくピッタリと重なり合う。

「同じ体格のものがいた……という言い訳は聞かないぜ、なんならもっと見せようか、瞳の色や拡大した指の形……データはまだまだあるぜ」

「今さら否定はせぬ」とジュリアスはキッパリ言い放った。

「だよな、別に悪い事をしてるんじゃないし、オレはさ今度の事でちょっとおめーの事を見直してたんだ、なんていうか……」と少し照れながらゼフェルは言う。

「だからさ、ヘリがあれば主星タイムズで借りないでもいいかと思ってルヴァに話を持ちかけて作ったんだ」

「アンタいいとこあるよ〜、いい子だね〜」とオリヴィエはゼフェルの頭をなでる。

「よせよっ、よせってばっ」

「そなたの気持ちはわかった、ありがたく使わせてもらう」とジュリアスが微笑むとゼフェルは鼻の頭を掻きながら言った。

「それでよ、あのオレもさ、サクリア仮面に入れてもらおーっかなって……」

「ダメだ」とジュリアスはゼフェルに最後まで言わせないで否定した。

「何でだよっ」

「サクリア仮面の活動は深夜に限られている、酒場などいかがわしい場所に行く事も多い、未成年のそなたに深夜労働を強いるわけには行かぬし、そのような場所に出入りさせるわけにはいかぬ」

「だからさ、いっつもとは言わねーよ、時々でも……」

 ゼフェルは食い下がる。

「守護聖としての職務の他に、学業の方の単位も残っているだろう、その上サクリア仮面として行動していては本業がおろそかになるに決まっている、サクリアーズに入るのは成人してからだ」とジュリアスは取り付く島もない。

「なんだよ、エラソーにっ。なんだよっ、バカヤローっ」

「まずその物言いを直す事だな、常識のない人間が人を成敗するとは笑止」

 とジュリアスが背中を向けるとゼフェルはドアを蹴飛ばしながら、

「もう頼まねー、オレはオレで好きにするからなーっ、お前なんか悪党にやられちまえーっ」

 と叫びながら出て行った。

「あらら〜、ちょっとキツかったんじゃない? ヘリまで作ってくれたんだしさー、ねぇルヴァ、いいの? 放ってて」

「いいんです、たぶん下心があってヘリを組み立てたとは思ってました。ジュリアスの言うようにあの子には取得しなければいけない単位が残っていますし、中途半端は為になりませんからね。それにゼフェルが入ればランディやマルセルも……という事になりますから」

 いつになくハッキリとルヴァは言う。

 


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