カイザリアス博物館の西館の一室、王族や貴族の持ち物であった貴金属類を展示してある部屋の奥に、薔薇の溜息は保管されている。特別に作られたガラスケースの中で、周りの貴石を見下げるかのようにひときわ大きく輝く。

 星立博物館だけあってその警備員の数も小悪党の館の比ではないし、何よりやっかいなのは今回の仕事はこちら側がいわば悪党であり、警備員には一切怪我をさせてはならないのだ。

 入念な下調べの末、サクリア仮面たちはカイザリアス博物館に忍び込んだ。時刻は日の曜日の午前四時……この時間前後に警備員の交代が行われ、一時警備が手薄になるのだった。

 薔薇の溜息の展示してある西館の裏口に三人は潜み、最後の確認をし合っていた。

「よいか、薔薇の溜息のある部屋は二階の一番奥だ、なんとかそこまで警備員に気づかれずにたどり着くのだ、行くぞっ」ジュリアスは立ち上がった。

「ねー、いつからあの人がリーダーなわけ?」とオリヴィエは小声でクラヴィスに言った。

「あれは生まれながらにああいう風に造られているらしい」とクラヴィスは気にしていない様子である。

 

 やすやすと三人は展示室にたどり着くと兼ねてから調べてあった主電源のケーブルを切った。部屋の中に入り込んで張り巡らされた数々の警報装置に触れないようにしながら、薔薇の溜息のガラスケースを叩き割った。

「ほらね〜、こういう星立の博物館の方がお役所仕事でさ、ここぞっていうとこの警備が貧祖なんだよね〜」とオリヴィエはその大きく冷たいピンクダイヤを手に取り、口づけするとポケットにしまい込んだ。

「よいか、行くぞ」ジュリアスが引き返そうした時、警報がけたたましく鳴り出した。

「な、なんで今頃鳴るのよ〜、んも〜」

「来るぞっ」警備員が走ってくる足音が館内に響く。

「突破するのだ、走れっ」ジュリアスは出口に向かって走り出した。その後を二人は続く。出口まで後少しというところで、サクリア仮面たちは数名の警備員に挟み込まれてしまった。こうなると、ジュリアスはしかたない……というように、ズイッと歩みい出て、

「騒ぐでない、我々はサクリア仮面である。主星の憂いを除くべく不幸の石、薔薇の溜息を頂戴した、承知いたしたなら道を開けよ」と開き直った。サクリア仮面と聞いて警備員は一瞬、どうしようか……というようにお互い顔を見合わせたが、やはりこのまま逃しては己のクビにも繋がる……と思ったのか、やおら警棒を振り上げると、ジュリアスに殴りかかった。

「うっ、何をするっ愚か者め、やむなし。我が攻撃を受けるがよい」と言うと、例の「ホーリー・シャイニング・アタック」を放った。が……警備員はビクともしない。

「何っ、私の攻撃が効かぬとはっ」動揺するジュリアスを押しのけて、クラヴィスは冷たく言い放つ。

「今回は悪いのはこっちだからな、この者たちは別にお前の気高いサクリアに恥じ入る事はしておらぬ、下がっていろ」と言うと、右手の人差し指を額にあてがうと、「ダーク・クリスタル・ラリホーマっ」と叫んだ。人差し指から強烈な安らぎのサクリアが炸裂し、まともにそれを浴びた警備員は「ね、眠い」と言いながら倒れてゆく。さらにオリヴィエは残りの警備員に向かって、立ちはだかると、「ドリーミング・ビューティ・メダパニ〜、悪いねぇ、あなたたちもいい夢見てね」と投げキッスをした。心地よい混乱に陥った警備員がニコニコしながら踊り出す。

「あら〜なんだかワタシの技ってちょっちカッコ悪いかも〜」

「夜が明ける、急がねば」三人は疾風のごとくその場を立ち去り、聖地へと急いだ。

 


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