そこに、ひときわ大きな木があった。その木の下で二人は止まる。今は、ゆるやかな風にそよぐ新芽がたくさん付いているが、カティスが聖地にやって来た頃は、若葉はほとんど付かない死に瀕した老木だった。カティスが、丹誠込めて世話をし、やっと回復させた木だった。
強い風の吹く日は『俺の木は大丈夫だろうか』と彼は心配し、天気の良い日は『俺の木の下でランチを食べよう』と誘われた事をジュリアスとクラヴィスは思い出す。
二人はどちらからともなく、その木の下にしゃがみこむと、自らの指先で穴を掘りだした。そしてその中に、先ほどのコインを埋めた。
ジュリアスは、土に汚れた自分の指先を愛おしいものでも見るように眺めた。クラヴィスは大雑把に土を払い落とすと、無造作に自分の衣装で拭き取った。ジュリアスが嫌そうなに顔をして見ているのを楽しむように。
「もうすぐ日が暮れる。久しぶりに私の館に来ぬか? カティスの残していったワインがある」
ジュリアスはそう言うとクラヴィスの反応を見た。
「ああ。お前の館に行くのは何年ぶりの事だろうか。フッ、側仕えたちが慌てるぞ……」
クラヴィスは、カティスの木を見上げながらそう言った。
「では行こうか。カティスの前だ。いっそ……手でも繋いで行くか?」
今度は、ジュリアスが笑いを噛み締めながら、クラヴィスに向かって土で汚れた手を差し出した。
Fin
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