★『誰も知らないウォン財閥の社史』★
さらに秘密の……番外編
ジュリアスの胸に抱かれたまま、チャーリーは考えていた。このままジュリアスに身をまかして置くべきなのか、それとも……と。 「えっと……」 「?」 「あの……俺……」 もじもじとしているチャーリーにジュリアスは事も無げに言った。 「そなた、初めてであるのか?」 「いやぁ、まさか……それなりに一通りは……。そやけど、えーっと、受ける方は初めてで……」 と言ってはたしてジュリアスに判るかどうか……と思いながら、チャーリーは答えた。 「できれば私は抱く方が慣れているのだが」 そのジュリアスの言葉に、チャーリーは、目の前をカチッカチッと星が飛んだように思った。 「だめか?」 「い、いえ、その、あの、あんまりキッパリと仰ったんでビックリしたんです。ジュリアス様、そういう事とは無縁そうやと思ってたから……。慣れてるやなんて……ちょっと……いや、かなりショックかも……」 「そうなのか?」 「まさか……ジュリアス様、光の館に後宮とかお持ちやったとか……」 チャーリーの言葉にジュリアスは軽く頷いた。 「それほど大袈裟なものではないのだが……」 「えええっ、冗談のつもりやったのにホンマですかっ。うわ……そうやったんか……俺、俺もそこに入れてください。会社があるから、ずっと言うわけにはいけへんけど、通いで……」 チャーリーは、ジュリアスの胸から、顔をあげて言った。 「守護聖には身の回りの世話をするものが数名控えており、そういう事も世話の範疇であると知らされたのは、ゼフェルほどの年頃であったか……。係りの者は男女ともに見目の麗しい者が置かれ、そういう事になったとしても、それを傘に着たりはしない人柄も出来た者が選ばれている。週末になるとその中から順に私の寝所にやってくる。聖地では、そういう風になっていると年長の守護聖や執事から言われたので、そういうものだと思っていたのだ」 「はぁ……それはまた浮世離れした話やなぁ……」 「そうだな……私もクラヴィスも外の世界は知らなかったので、それがごく普通の事であると思っていたのだ」 「そしたら今も……」 「いや、今はそのような事はない。年長の守護聖が去ってゆき、私たちは外の世界を知る機会もふえ、共に愛する人を見つけた。そうすれば自ずと判ったのだ。心が伴わぬ行為には虚しさがつきまとう、と」 「愛する人……?」 「視察に出掛けた時、遠い辺境の星の名前も知らぬ乙女に恋をした」 「ジュリアス様でもそんなことが? で、その乙女のヒトとは、結局……」 ジュリアスは小さく首を左右に振った。 「首座の守護聖であることに、一番強く気を張っていた時期だった。そのような恋心を抱くことすら罪であると思っていたのだ。何もあろうはずもない。ただ……」 「ただ?」 「別れ際に、唇を重ね合った。そなたとしたように、思わず。相手にしてみれば、ただの別れの挨拶だと思ったに違いない……」 「きれいで可愛い恋の物語やなぁ………なんや……そうか……えへへ」 チャーリーは嬉しそうに笑った。 「何か嬉しそうだな?」 「守護聖様は、特にジュリアス様は、こういう事に対して、無縁どころか、もしかしたら感情さえないのかも……とふと思ったりしてたんです。そんなんやったら、俺の入る隙もあれへんかったけど」 チャーリーはジュリアスに抱きついた。そして……。 「ジュリアス様、俺のベッドに……、ここ狭いし」 チャーリーの声が、突き抜けて明るい。ジュリアスをそれを聞いて、笑い出す。 「そなたは……本当に判りやすいな」 「そんなんジュリアス様の前だけです。俺、普段はポーカーフェイスのウォン言うて、有名。きれいで可愛い恋の思い出とは、ほど遠いやろけど、ジュリアス様の中のめっちゃ楽しい恋の思い出になるように……」 チャーリーは、立ち上がり、ジュリアスの手を取った。 「コンピュータ、俺のベッド!」
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