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 カチカチとキーボードを叩く小さな音。それは概ね途切れることなく一時間ばかり続いている。ジュリアスは『ENTER』キーを押した後、仕上がった文書を保存すると、大きく伸びをし肩の疲れを解した。時刻は午後三時になろうとしている。
 もう三時かー、コーヒーでも淹れますねー、と、この時とばかり張り切るチャーリーの姿はない。ジュリアスは備え付けのドリンクサーバーから、自分だけの為のコーヒーを淹れる。器具も豆も同じ、チャーリーと教わったのと同じタイミングで淹れているはずのコーヒーだが、どこか味が違う。
 そら、そうや。俺の場合は、ジュリアス様に対する愛が指先からダダ漏れで、仕上げのエッセンスとなってるわけやし! とチャーリーが真顔で言うのも、まあ確かに……とジュリアスは思う。
 コーヒーを片手にジュリアスは窓辺に立った。眼下に主星星都の喧噪、やや視線を上げた遙か向こうに官庁街のビル群があった。その付近に景観を考えて点在している小さな公園の木々が見える。落ち着いた緑色のそれの合間に、すっかり紅葉したものも。もう後一週間もすればそれも落ちてしまい街は冬らしくなってしまうだろう。
 ジュリアスは、チャーリーのデスクに置かれた卓上カレンダーを何気なく見た。十一月二十一日から十二月一日までの欄に ザッと線が引かれ、『チャーリー不在』と書かれている。
“今日は二十八日……後三日もすれば、主が戻りこのオフィスの静けさも終わる……十日間くらいどうということもないと思ったが……案外長いものだな……”
 ジュリアスはコーヒーを一口飲み、やはり味が違うことで、またチャーリーを思い出し、小さく笑う。

■NEXT■


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