サクリアを壺に放出した後は、守護聖の体内のサクリアは空になるが、それは一時的な事である。火種としてのサクリアの源までもが消え失せた訳ではない。
 それまでも消えてしまった時が聖地を去る時なのである。クラヴィスはジュリアスの体を強く抱きしめて彼のサクリアの火種を確かめる。

「まだ……残っていたか?もうだめなのか?」
 ジュリアスは不安そうに問う。

「微かだが、ある。まだ残っているぞ、静養すれば、また元通りになるはずだ」
「そうか……だが私にはわからない、自分自身のサクリアが感じられない……」
 いつもの毅然とした態度からは想像し得ない弱気な言葉に、クラヴィスは思わずジュリアスの手を握った。

「どうだ……私のサクリアを感じるか?」
「ああ、感じる、微量だが安らぎのサクリアだ……心地よい」
「それと同じように私はお前のサクリアを微かだが感じる事が出来る、安心して眠るがよい」
 クラヴィスは、疲れたジュリアスに己のサクリアを放とうとした。

(あ……そうだった、私も先ほど今日の分は全部、壺の中に放出したのだった)

「う、うう」
 ジュリアスは苦しそうに寝返りを打った。握りしめた手からはまた一段と彼のサクリアが弱まっているような感じがする。

「手からだけでは間に合わないのか、やむを得ん」
 クラヴィスはジュリアスの隣に横たわり、体を寄せて抱きしめ毛布にくるまった。がジュリアスのサクリアの気配は強まる気配がない。クラヴィスは着ていた衣装を脱ぎ捨てるとグッタリとして意識を失ったままのジュリアスの衣装も剥ぎ取った。

(こうなったら、全身全霊で私のサクリアを送り込むしかない)

 クラヴィスは、ジュリアスの頭を己の裸の胸に押しつけた。ドクンとクラヴィスの心臓の音がする度に少しづつ少しづつ、安らぎのサクリアがジュリアスの中に染みわたる。

「わ……私はまた意識を失っていたのか……はっクラヴィス何をっ」
 自分がクラヴィスの胸に埋めていると知って狼狽するジュリアス。

「仕方ないのだ、私のサクリアも今はカラ同然でな、こうして直接残ったサクリアを染み込ませるしか」
「そうだったのか……すまなかった……」
「もうしばらくこうしているしか仕方あるまい」
「そうだな、私もこうしていると心地よい、眩暈も幾分治まってきたように思う」

 ジュリアスはクラヴィスに抱かれたまま、じっとしていた。お互いの体温のせいで、毛布の中は思いの他暖かい。

「ん?クラヴィス……そなた邪な事を考えてはおらぬかっ」
「そのような事は考えてはおらぬ、私とて疲れているのだ、体が暖かくなり眠くなれば自然と……邪魔かも知れぬが我慢せよ」

「そ、そうか……疑ってすまぬ……ああ、私もなんだか体が暖まってきた……」
「見ろ、しようない事なのだ……お前が女なら話しは別だが男の身ではお互いどうする事も出来まい」
「まったくだな」
 しかし、二人の局部的な高まりはいっこうに治まる気配がない。

「困ったものだな……」
「伝え聞いたところによると、男同士でもなんとかなるというが、そなた知っているか?」
「話だけは聞いた事があるがやり方など知らぬ、構造的に無理があるではないか」

 それからまた無言で二人は抱き合ったが、ますます……。

「どうもこのままでは眠るに眠れない、やり方はわからぬが出来るところまでやってみてはどうか?」
 ジュリアスは疲れているのに眠れない事に苛立ち、深い考えもなくそう言った。

「そうだな……お前はまだ動いてはならぬ、私がやってみよう」
 とクラヴィスはジュリアスの体をそっと離すと、一呼吸置いて、また強く抱きしめた。

 そして蒼ざめたジュリアスの頬に口づけし、そのまま顎から首筋へと唇を這わせる。
「あ……いいかも知れぬ」
 ジュリアスが喘ぐとクラヴィスも小さく「そのようだな」と呟いた。

 

◆◇◆

 ……朝……。昨日の騒ぎが嘘のように爽やかな朝。

 クラヴィスの執務室のベッドに、出来るところまでのつもりが何故だか最後まで出来てしまった二人がまだ抱き合って眠っている。

 


挿し絵 
藤山沢かの子様/BAR BAR BAR (当時)

★ END ★


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