序 章


 朝……。
 高層ビルの最上階から、ジュリアスは窓の外を見ていた。一応は青い空が、目前に広がっている。その地区にすれば、まぎれもなく今日は晴天である。だが、彼のよく知っている空に比べれば、濁ったような空の色だ。

 ちょうど、ジュリアスの目の高さあたりに、旧型の宇宙船が、ゆっくりと上昇していくのが見えている。彼のいる場所から、さほど遠くないところに、この地区の宇宙港がある。この星は、辺境地域から鉱物資源を、主星地域に運ぶための中継地として、それなりに栄えた惑星であった。

 星間を行き交うのは、鉱物だけではなく、様々なものが、この惑星上で、取引されている。だが、経済的に栄えていると言えないのは、取り引きされるものの中で、非合法なものの締める割合が、高過ぎるからだ。
 ジュリアスのいる地区は、この星にある幾つもの自治区のうちのひとつで、他の地区に比べれば、貧富の差が激しい所であった。 

 ジュリアスは、視線を、その宇宙船から外し、少し下を見た。ビルの合間を飛び交う小さな個人用のエアカーは、一応は秩序だって列を作り、縦横に流れている。さらにそこからもっと下を見る。ある所を境に青い空は消失する。ぼんやりと靄がかかりだし、厚い灰色の層を作り、やがてそこから下は見えなくなる。

 この地区の上層部分が作り出す汚れた空気は、フィルターに掛けられて浄化される。だが、最下層部には、古ぼけた僅かな清浄システムしかない。自らの作り出す老廃物質と上層部の浄化しきれない物質が、下層部に溜まってゆく。それが澱んだ空気となって下層部を包み込み、青空のない世界を作っている。そうした場所には、それなりの境遇を背負った人間が住んでいる……。
 窓の外に広がる空と、高さを競い合うビル群の整備された美しい上層部の尻拭いの為に存在する下層部の灰色の世界。そのギャップが一番顕著に見えるのが、朝のこの時刻なのだった。
 
ジュリアスは毎日それを見ながら、自分に言い聞かせるのだった。私には、関係のないこと……と、何度も繰り返して。

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