「まだかよー。ったく、人を呼びつけといて、待たせるなよな」
「陛下の御前だ、口を慎め」
「何言ってンだか、陛下がいるのは、この部屋を出た廊下のずーーーーっと奧の奧にある閲見の間じゃねぇか」
「宮殿に入れば、そこは女王陛下の御前と承知せよ、わかりきった事を何度も言わせるな」

 ジュリアスはゼフェルを見ることなく声を抑えて言う。それとは反対にゼフェルは声を荒立てる。
「ふん、どーせ、陛下の話って、“お願い、二人とも仲良くしてね”とかそういう話だろ、でっかい目ウルウルさせて言うワケさ、チッ」

 その通りだという事はジュリアスにも察しがついていた。 昨日、午前中の短時間の事だったが、ゼフェルは誰にも行き先を告げず聖地を抜け出した。戻ってきた時、出迎えたルヴァに詫びもしないどころか、心配して待っていたことを嘲るような言い方をした。その場にいたジュリアスは、思い余ってゼフェルに手を掛けてしまった。苛ついてきつい言葉を放つゼフェルの頬をピシャリと。その場にはロザリアもいた。そしてこの一件は女王に伝わることになったのだろう。二人揃って宮殿に呼び出された理由はそれ以外にはない。


「もうかれこれ三十分近くになるぜ、これ以上待たされるのは御免だ、オレは帰るぜ」
 ゼフェルは立ち上がって帰ろうとする。

「今しばらく待て。我らの前にエルンストが、宮殿に先に入って行くのを垣間見たから、報告が延びているのであろう」
「それなら……後十分だけ待つ、キッカリ十分だけだからなー」

 ゼフェルは渋々、ソファに戻った。ジュリアスに背を向けるように座ると足を組み、苛立たしげに頭をポリポリと掻いた。ジュリアスは姿勢を崩すことなく座り続けた。出来ることならばゼフェルのように足を投げ出して深くソファに腰掛けたい衝動に駆られながら。それでも尚、ジュリアスはまっすぐに掛け時計を見続けて座り続けた。

「ふぁぁぁぁ〜」
 突然ゼフェルは大きな欠伸をした。
「眠いぃぃっ。オレ、夕べ、ほとんど寝てないんだよな」
 言い訳をするように小声でゼフェルはそう言うと、目を擦りながら頭を垂れた。「夜更かしをするからであろう。まさか勉学や執務に励んでいたとは思えぬ」
「あんなー、オレだってたまにはするんだぜ、仕事をよ」
「そんな遅くまでせよと命じた覚えはない」
「命じられたからするとか、命じられなかったからしないとかそんなモンばっかじゃねーだろうがよ、責任ある仕事って」
「そのような言葉がそなたの口から出るとは喜ばしい限りだな、ではどのような仕事をしていたのだ?」
「過去のβ星系の天災の関するデータの解析プログラムの修正!」
 どうだ、てめーに出来るかよ?というようにゼフェルはジュリアスに言った。

「それは研究院の仕事ではないか?」
「トラブルがあったんだよ、大した事じゃなかったけど。明日までに、データが欲しいと、どっかの偉いさんが仰ってたらしくてなー、研究員のヤツら青くなってたもんだからなー、オレが手伝ったんだ」 

NEXT