第四章 遺 志
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シャーレンの見せた聖地の始めは、自分たちの世界とさほど変わらぬようにオリヴィエには思えた。田畑を耕し、獲物を借り、優れた長が民を束ねて生きる姿は、今の東の大陸の国々のそれと似ている。衣類や住居などにその違いがある程度だ。 「オリヴィエ」 とふいにシャーレンの声が、オリヴィエの耳に届いた。 「意識を外に向けないで。また、“深い処へ行く”よ。少し辛いかも知れない。それと……ジュリアスたちを頼むよ」 クラヴィスとオリヴィエの存在は、深い意識下から戻るための命綱のようなものだと言ったノクロワの言葉が耳に残っている。 「頼む……と言われてもどうすればいいんだか……」 オリヴィエはそう呟いたが、シャーレンの声はもう返っては来なかった。そしてオリヴィエの意識は深く深く潜っていく。 ……数字の羅列が通り過ぎていく。何かの年号のようにも思える。果てしなく長い数列の向こうに、やがて森が見えてくる。森の中に巨大な鉄門。その奥には、整えられた庭があり、さらに白亜の宮殿が見えている。カチッと何が切り替わるような機械音がした。 黒いスクリーンの上に、白文字で、こう書かれたタイトルが映し出された。 【聖地記録 座標0001.2902.11.11-S 聖地・白亜宮】 シャーレンの見せる【記録】がまた始まった……。 夕暮れの執務室で光の守護聖であるジュリアスが黙している。組み合わされた指の上に顎を乗せ、考え込んでいる。その表情は険しい。彼が憂いでいる原因は、先ほど主星代表がもたらした報告の内容だった。 『外域惑星連合との最終交渉が決裂……』 そう呟いてジュリアスはこめかみを押さえた。 「ガイイキワクセイレンゴウ……私は一体……何を……」 また違和感がジュリアスを襲っていた。すかさず、シャーレンとノクロワの仲介が入る。 『彼、自意識がとても強いんだ。普通なら一旦、深層意識下に入ればここまで違和感を感じない』 『拒絶反応が出ているかも知れない……。セレスタイト、お前は当時の光の守護聖の性格を感じた経験があるだろう、どうなんだ?』 ノクロワに言われて、それまで達観していたセレスタイトも介入する。 『光のサクリアを持つに相応しい人物だった。あの時代の人物だから、多少の歯痒さはあったが、私の場合はすぐに馴染んだ。ジュリアスは特別だな……守護聖でない分、拒絶反応値も高いのだろう』 その言葉の最後に微笑みが加わる。 『なんだよ? 笑ってる場合?』 『すまない。ジュリアスは、よほど誰よりも光の守護聖に相応しい資質の持ち主だと思って、な。如何なる時にも自我を失わず……』 『少し危険だがジュリアスに闇のサクリアを深く送ろう……さらなる深みへ行けるよう……』 「ガイ……イキ惑星……レン……合の……」 例の違和感は一掃されている。ジュリアスはハッとし顔を挙げ、手元の資料に目をやった。現状に至るまでの経過を纏めたもので、以前、主星側から提出されたものだ。そこに書かれている内容をジュリアスは、改めて読み返し、良い解決策がないか模索する。 |