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「おぃ、何やってんだ、貧血か? そう言ゃお前、ここんとこなんか顔色もよくないな。疲れてるんじゃないのか?」 「ンなことない。けど、悪いな、おやっさん、ちと休憩させてくれ」 ゼフェルはポンコツのバイクを離れて、工場の裏庭に出た。そして、抜けるように青い空を見つめた。流れて行く白い雲、綺麗な綺麗な……造り物の空。 「チッ……青ずきるっーの」 ゼフェルは、舌打ちをして視線を空から戻した。 「キレイすぎて嘘くさい……ってか?」 ゼフェルの背中に、煙草を加えた工場主が、声をかけた。 「たまにメンテの時、ちょこっとだけ、本物の空の色になる時あるだろ? あのくすんだ灰色の空の方がさ、なんか好きなんだよな。政府のヤツらって、なんかイマイチわかつてないよな。なんでもかんでも制御しようとしてさ。とことん制御するなら中央都市みたいに、この暑さをなんとかしろってぇの。ケッ、空に色つけるだけで手いっぱい?」 「地方までは手が回らねぇんだろ。それに健康の為もあるしな。気温の制御は人体に悪い影響を及ぼす……って俺たちみたいな中年には、この暑さの方が堪えるんだがなぁ。ま、空の色を制御するってのは、子どもたちに青い空を残そう運動が、盛んになった時、俺たちも賛成したから、何にも言えねぇなぁ」 「子どもたちに青い空を残そう運動? ……だっせぇ」 「子どものことなんか俺はどうでも良かった、俺自身、まだ二十歳そこそこのガキだったしな。ただあの頃は、青い空を飛びたかっただけだ。いい成績が取れた年があってな、いっぺんだけ主星のレースに招待されたことがあるんだ。気持ち良かったぜ……青い空を飛ぶっていうのは。ちょうどその頃、空の色を調整するかどうかで各地で運動が起こっててよ、俺も賛成したってワケさ。お前にとっちゃ生まれた時から、青い空で当たり前の事かも知らねぇけどよ、ずっと濁った灰色だったら、それはそれで嫌になるぜ」 そう言うと工場主は、煙草を深々と吸った。 「そんなもんかな……ふう」 ゼフェルは、ぼんやりとした声で答え、汗を拭いた。額にオイルが擦れてついたのにも気づかずに。 「お前、本当に顔色がよくないぞ。そういえば新学期から、専科に行くんだろ?もしかして、夜、勉強してんのか? それとも学費、稼ぐためにバイト、他にもしてんじゃないか?」 「行かねぇよ……」 「学費の事でか? 専科の学費は高いからな。親父さんだってそのつもりで夜勤のシフトを入れたんだろ? 専科を卒業すりゃ、大学までストレートだ。お前には似合わないけど、中央管理都市勤務のエリート間違いなしだもんな。出世払いで、俺だって協力したっていいぜ」 「行けねーんだよ……」 「専科への転入、受かったのはこの地区じゃ三人だけだって聞いたぞ。学費の事じゃないなら、なんで行けねぇんだ?」 工場主の問いかけに、ゼフェルは押し黙った。それを急かさずに、工場主は、根気よく煙草をふかし続けた。 「なぁ、おやっさん……守護聖って知ってンだろ?」 根負けしたゼフェルが、ようやくポツリ……と話し始めた。 |
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