大通りから外れた路地の突き当たりに、エアバイクの修理や廃棄処分を請け負う小さな町工場がある。
 錆びたシャッターを開け放った中は、打ちっ放しのコンクリートに囲まれた作業場で、旧式のエアバイクが、何台も並べられて、解体されるのを待っている。換気の為に空調設備は最小限に押さえてあり自然に吹く風だけが頼りの暑 さの中で、ゼフェルはまだ使えそうなパーツを取り外すのに専念していた。
 夏休みの間、彼はこの工場で、趣味と実益を兼ねてアルバイトをしていた。ゼフェルは、オイルにまみれた手のかろうじて綺麗な部分で、滴り落ちる汗を拭うと、自分の後で同じように作業している工場主の男に声をかけた。
「おい、おやっさん、今日入ってきたバイクな、どいつもこいつも使えねぇぜ。ちょっと前に流行った駄作ばっかぢゃん、このまんま、まるごとプレスしちまえば?」
「バーカ、よく見ろってんだ。手前から三台目、下品にカスタマイズしてあるだろ。どっかのバカ息子が、ワケもわからずに付けやがったんだろな、AZ53形式のサス、外しといてくれ。ジャンク屋に高く売れるからな」
「うわ、すげぇレア! おやっさん、知ってて何食わぬ顔で解体費まで、ぶんどっただろ?」
 ゼフェルが、驚いた声をあげると、工場主はニヤリと笑った。ただひたすらエアバイクを愛して、そのまま歳を重ねたようなその男と、ゼフェルの年齢差は倍以上違うのだが、その会話は連れ同士のようだった。
「なぁ、おやっさん、これ終わったら、ちょこっとでいいからさ、あの新車乗らせてくれよ」
 ゼフェルは、工場の玄関先にデンと飾ってある場違いなエアバイクを、憧れの目で見ながら言った。修理や廃棄処分だけでなく、この星で一番のバイクメーカーと代理店契約してあるこの工場では、一応、新車販売も行っているのだった。
「半年待ちの新車だぜ。こんな修理工場兼代理店じゃ、先行予約して抽選に当たって、やっと一台回って来たようなブツだ。今朝、届いたばっかりなのに、もう、現品でもいいからって、問い合わせも入ってるんだよ。お前なんかに乗せられねぇよ」
 工場主は、素っ気なく言った。
「ちぇ、ケチ」
 ゼフェルは毒づくと、スパナを持ち替えようとした。工具箱に手を延ばしたその瞬間、グラリと空間が歪む感覚に捕らわれて、彼は、掴みかけたスパナを落した。
(ケッ、女子じゃあるまいし、この程度の暑さで眩暈かよ。ちくしょう。アイツのせいで、昨夜も眠れなかったからな……)

 

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