緻密な文様を描いた青いタイルが、外壁一面に貼られて、見る者を圧倒する。
その文様は、一定の法則に基づいた弧を描きながら、上へ上へと蔦のように伸びてゆく。
この地方によく咲く草花の形と、王家の紋章である星の形を絡み合わせながら、やがては天にまで届くことを切望するかのように。

 照りつける日差しの中、二人連れが、その寺院の壁面に描かれた文様に見入っていた。地域に住む住民ならば、日除けのヴェールは、丈夫な麻布で作られたものである。明らかにそれとは違う上質の白い絹地のヴェールを、彼らは被っていた。
 少し前であるなら、このような観光客の訪れも珍しいことではなかった。一年ほど前、この国の情勢が悪化し、内乱が勃発してからは、観光客など来ることの出来る状況ではなかったのだ。
 こんな時期に案内人も付けずやって来るのは、大抵、寺院保護派の学者や記者などの類で、たいそうな計器・機械類を担げているのが常だった。だがその二人連れは、何の手荷物も持ってはいなかった。そればかりか、彼らは突如としてそこに現れたかのように、いつの間にか、寺院の外壁の前に存在していたのだった。
 日がな一日、寺院の門前に座って、形ばかりの門番を務めている老人は、二人連れを、訝しく思いつつ尋ねた。

「寺院の見学かね……見たところ、そちらは珍しい……異国の方らしいが、どこから来なすった?」
 門番は、白い日除けからチラリと覗いた男の金色の髪に驚き尋ねた。
「遠い国からだ」
と金の髪の男、ジュリアスは、それだけ言うと、門番から目を反らした。
「少々、調べたいことがあってな。無理は承知でやってきたのだ」
 ともう一人の黒髪の男、クラヴィスが答えた。

「また考古学の先生か、それともカメラか雑誌の人ですかい? 内乱が始まってから、特によくいらっしゃるようですがね、いくら反乱軍でも寺院を攻撃するようなことはしませんって儂は言うんですがね。どうやらアンタらは、寺院が今にも崩壊すると思って、必死で記録を取ろうとなさってるみたいだ。この寺院の崩壊は、反乱軍の攻撃じゃありませんて。長い年月による風化ですよ、でもまぁ、どっかの金持ちが寺院の修復費を全額負担してくれるらしいから、儂もこうして門番稼業を続けられることになったんですがね……そもそもこの寺院は、アジュマラ王朝の……」
「見物料は、これで足りるな」
 門番は、暇にあかせて一席ぶるつもりだったようだが、クラヴィスが、有無を言わさぬ態度でそれを遮った。
 門番が、見物料と言われて慌てて差しだした掌の上に、定められた料金料の十倍ほどにもなる銀貨を、クラヴィスは乗せた。
「あいにく釣り銭が……」
「いらぬ」
 呆気にとられている門番を残して、二人は、さっさと門内に入って行った。 二人が、正面にある荘厳な扉を押し開けて入ろうかという間際になって、その後ろ姿に門番は、慌てて声を張り上げた。
「進路表示に沿って進めば、祈りの間・王の間と進めますんで。もうすぐ僧侶による祈りの時間ですので、始まったらお静かに」
 ジュリアスとクラヴィスは、門番を一顧だにせず、扉の中に消えていった。

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