周りを山脈に囲まれた処。
緑なす大地が拡がっているのはほんの僅かな土地のみで、あとは延々と荒野と砂漠が重なり合うように続く。
その狭間に点在するオアシス地帯のひとつ。
かっては王都として栄えたその街の外れの高台に、回りの乾いた空気を、消さんが如く存在する建物があった。

 それは千年よりの昔。幾つもの山と砂漠を越えて、辿り着いた荒野の中。ひっそりと湧き出る泉の辺に、初代の王は宮を建てた。外敵からの隠れ家として。 
 最初は、保養地のひとつにすぎなかったこの地に、次第に運気が集まり、王は遷都を決意した。ただ『泉の辺』と呼ばれていた土地は、王の名を取りアジュマラと改名された。
 
 王とその一族は、宮の建設に力を注いだ。国の統一後は、恐れるものは何も無い、燃えさかる太陽さえも意のままに遮ることも出来るようにと、三世代をかけて宮の壁面を青いタイルで覆い尽くした。冷ややかなその質感は、この国の大半を占める乾いた大地に住む者の羨望を集めた。だが、多くの例と同じ様に、やがては、その羨望が、青の壮麗朝と謳われたアジュマラ朝を滅亡に導くことになるのであった。
 王朝が滅んだ後、王宮は寺院として今に至る。その国のもっとも美しい建築物として、観光客にも開放されて久しい。 


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