| もうすぐ夕食の時間……とアンジェリークは思いながら、エリューシオンについての記録のファイルを開いた。後少しで終わると言うことは判っていた。 (たぶん今週末くらいかも……)
 アンジェリークは、細かな数字を拾い出して予測した。
 守護聖の司るサクリアの建物や親密度という分かり易いイメージで表されたものは、女王とディア、それに王立研究院の計らいである。
 本当はもっと緻密な数値で大陸の育成度は表されている。
 アンジェリークはファイルを閉じると、私室を出た。
 
 二人の女王候補の為に用意された食堂には、既にロザリアが着座していた。ロザリアのテーブルの前には水が置かれているだけである。
 「もしかして待っていてくれたの?」
 アンジェリークは少し驚いて言った。食事の時間は一応は決まってはいるが、二人一緒にとは決められてはいない。初めの頃に、いちいち待っていては時間の無駄だからと、ロザリアが言い出して、それからはお互いに待つことはしないと決めたのだった。
 
 「ええ。あなたと一緒にここで食事を取れるのも後少しだし……」
 「うん……」
 「週末には決まるわね……少し早いけれど、おめでとう」
 ロザリアはにっこりと笑って言った。
 
 「あ、ありがとう……」
 「わたくし、侮ったわ。王立研究院のデータの事よ。可愛らしい建物に置き換えたデータなどに惑わされるものですかと思って、初期の段階から本当の細かなデータを解析して育成してきたけれど……数値に捕らわれてしまって大切な事を見失っていたのね。
 あなたは素晴らしかった、宇宙を統べるというのは、数値を扱うことではないのだものね」
 「ううん、私はロザリアみたいに、そんな事あんまりわからなくて……ただ、思うがままにやっただけ」
 
 「でもここ数週間は、かなり本気だったみたいね。細かい数値も気にしていたみたいだし、
 わたくしね、あなたの女王としての資質には気づいていたわ。
 もちろん、わたくしにも資質はある。けれどもあなたのはもっと決定的な何かなのよ。
 でもあなたはそれに気づいていないみたいだったから、わたくしがあなたに勝てるとしたら、理論的に数値データを読み取って、それで差をつければ……と思っていたの。
 それにわたくしみたいにどうしても女王になりたいとあなたは思っていなかったでしょう?
 だからきっとあなたに勝てると思ったのに、三週間前に、何かあったの?」
 
 「別に何も。ただもうすぐ終わりだと思うと気合い入っちゃったの。
 私って間際にならないと力でないタイプなの。スモルニィの時もそう。一夜漬けばっかりで」
 アンジェリークはクラヴィスに告白した事には触れずに誤魔化した。
 
 「そう、ならいいわ。でも何か悩み事があったらわたくしに言って頂戴。もしよかったらわたくしを補佐官にしない? 何でも相談に載って差し上げてよ」
 ロザリアはツンと澄まして言った。
 「ホント? でも、ロザリアが補佐官になったらどっちが女王かわからなくなっちゃうかも〜」
 「大丈夫よ、女王と書いた名札でもお付けになればいいのよ」
 「ひっどーいっ」
 アンジェリークはロザリアに心の中でありがとうと呟きながら、笑った。
 
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