「どうしたのですか?」
「エイプリルフールって知ってるか?」
「ええ、聞いたことくらいは。確か西洋の……亜米利加でしたか? いたずらや嘘をついてもいいとかいう日の事ですね……それが何か?」
「今日なんだ……」
「はぁ……えっ!? それでは貴方が亜米利加に帰るというのは……」
「嘘なんだ」
 俺はコメツキバッタのように頭を下げ続けた。

「殴ってくれ、投げてもいい」
「…………」
 リュミエールは何も言わない、ソファにダラリともたれたまま、白い目をして俺を見ている。
「いいですよ、もう……」
「お、怒ってないのか?」
「怒ってます。けれど、貴方は明日も上海にいる。明後日も、明々後日も、ずっと。だから、もういいんです」
 リュミエールはそう言うと、俺の横に座り、俺を……俺を抱きしめた。リュミエールの意外な行動に俺は戸惑いながらもリュミエールを抱き返した。

「オスカー……」
 リュミエールが俺の耳元で、俺の名を呼んだ。今まで聞いた事も無いほどに切なく。その声だけで俺はもう……。リュミエールは優しげな瞳で俺を見つめた。蒼白だった頬に少し赤味が戻っている。
(正直に言ってよかったーっ。ブラボーッ)
 俺は天にも登る気持ちでリュミエールをそのままソファに押し倒した。すると、なんと、リュミエールは俺をベッドに誘ったではないかっ。

「貴方ばっかり、わたくしを攻めてずるいです……わたくしも少しだけ貴方を攻めてみたい……」
 とリュミエールは言った。俺は返事が返せないまま、リュミエールにベッドに押し倒された。立場は違うが、まぁ、いい。最後のとこで俺が攻め返せばいい事だからな。リュミエールは大胆にも俺の上に馬乗りになると、にっこりと笑った。

(や、やばいっ。この笑い方はっ。リュミエールの至上の微笑み攻撃……)
 俺は思わず跳ね起きようとしたが、ままならない。

「オスカー、何を焦っているのです?」
「俺が俺が悪かったーっ。ゆるしてくれぇぇぇ」
「オスカー、貴方もだんだんとわたくしの行動を見切るようになってきましたね……でももう遅いです」

 リュミエールはそう言うと、俺の股間を見た。軽蔑するような目。
(あーそだよっ、こんなになってるのはお前のせいだよっ)
 俺は開き直って、大の字になった。

「好きにしていいんですね……オスカー」

(くー、そう言われると違う意味だと思っていてもつい、ドキッとしてしまう俺〜)
 リュミエールは、馬乗りになったまま、ズボンのポケットから何か取り出し、俺のシャツのポケットに入れた。
「?」
「海風飯店の領収書です、明日、お金返して下さいね。それから……もう二度とこんな嘘をついたら、その時は黄浦江に沈んでもらいますからね」

 それだけ言うとリュミエールは俺の上から降り、床に散らばっていた上着やベストなどをかき集めた。
「殴らないのか?」
「貸しておきますよ……では、おやすみなさいオスカー」
 リュミエールはそういうと少しふらつきながら部屋を出ていった。


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