翌朝……、パレスホテルをチェックアウトした俺は、リュミエールとオリヴィエに謝る為に水夢骨董堂に向かった。店に入るとオリヴィエがボーッとした寝起きの顔で新聞を読んでいた。俺を見るとオリヴィエは冷たく言った。 「この大うそつきっ」
「すまん……リュミエールは? もう一度謝りたいんだ」
「いないよ、夕べ、いったん戻ってきて、ひとしきりアンタの事喋って出ていったきり帰ってないよ。野鶏でも買って、どこかで時化込んでるんじゃないの、ムシャクシャしてさ」
「リュミエールがそんな事するかっ」
俺はオリヴィエに食ってかかった。
「するさ、リュミエールだって男だもん〜。四馬路じゃ、夜の帝王リュミさんって、ちょっと有名……ってはずないけども〜」
オリヴィエは俺の反応を楽しむように言う。
「うー」
俺が呻いたのと同時に水夢骨董堂の扉が開く音がし、リュミエールが入ってきた。昨日のままのタキシードで上着を手に持ち、シャツの袖は腕まくり、ネクタイはヨレヨレの姿で。リュミエールは俺を見ると同時に小さく欠伸し「眠い……」と呟いた。「お帰り〜、ちよっとっ、九時過ぎだよ、そろそろ店を開ける用意しなくちゃ……」
オリヴィエが言い終わらないうちにリュミエールは、そのまま奧の部屋に入ろうとする。
「オリヴィエ〜、わたくし眠くて……少し寝かせて下さい。夕べ寝てないんです」
「ええっ、寝ないでヤッたの? 何回も?」
「仕方ないでしょう……向こうがお願いって言うんですから。途中で上手い人が来て、面白くなったので、ついわたくしも夢中でヤッてしまいました」
「へぇ、アンタよか上手いの?」
「ええ。指使いなどは絶品でしたね。わたくしもそこそこ自信はありましたけれど、やはりプロには叶いませんね。あの手この手で攻められてしまって、あんな大技、初めてでした」
「じゃ、リュミエールってばコテンパンにやられたんだ〜」
「ふふふ、いいえ、負けませんでしたよ。わたくしも少しくらいはお返しいたしましたよ。」俺は二人の会話を聴いて仰け反った。そんな露骨に言わなくてもいいじゃないか、オリヴィエ〜。リュミエールっ、お前がそんな事するなんて〜。でもそんな上手い野鶏なら俺にも紹介……いかんいかんっ。
「最後の最後にわたくし、キュウレンホウトウしましてね、もう目眩がいたしましたよ、相手も仰け反って泣いていました。テツマンした甲斐がありました。ああ満足です、わたくし〜」
「そりゃ、お疲れさま、じゃ少し奧で眠りなよ」
「ええ、ありがとうオリヴィエ〜。ダイサンゲン〜、スーアンコタンキヅモ〜、ダイスウシ〜に、コクシムソウ〜〜」リュミエールは呪文のような怪しげな言葉の鼻歌を歌いつつ奧に消えた。
【キュウレンホウトウ】、【テツマン】……目眩、仰け反って泣く!?!?!?!「オ、オリヴィエっ。そのキュウレンホウトウっていうのは、どんな体位なんだっ、テ、テツマンって一体……」
俺は思わずオリヴィエに詰め寄った。「キュウレンは九連と書くの、ホウトウは宝刀……ま、男のナニって意味だね。九連ってのは字の如く、ほら〜、連なるのよ、九人が〜。テツマンはね、テツは徹と書いてね、とおるとかぁ、つらぬきとおすって意味の字でね、マンは……ああっ、言えないよ〜そんな恥ずかしい事っ」
オリヴィエは側にあった髪に漢字を書いて説明してくれた。
「何っ! 俺も3P4Pくらいまでは知っているが9Pとはっ?! 恐るべし中國四千年の秘技っ」俺は驚いた。まったく中國ってとこは得体の知れない謎がある國だ。ああ、それにしてもそんな淫らなプレイにリュミエールが……。9Pなら俺も混ぜてくれたっていいのに、いいのに〜。俺はリュミエールの信頼を得ようとあっち関係の遊びを慎んでいたというのに。あんまりだ。こんなことなら、昨日、あのままヤッてしまえばよかったんだ。俺のバカバカ! ちくしょう…… 俺は、昨日の海風飯店での支払いをオリヴィエに投げつけるように払うと、「借りは返したからなっ」と言い捨てて水夢骨董堂を後にした。
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