〜友雅さんと詩紋くんシリーズ〜(シリーズなのかっ)
詩紋くんの天然系お耽美
(友雅さんが、あかねちゃんにセクハラしてる……)
詩紋はそういう目で、今、目の前にいる二人を見ていた。
当の二人が何をしているか、と言うと……。
今朝、土御門御殿を、訪ねる道すがらに咲いていた名も知れぬ野花が、余りに可憐で、神子どのを思わせるので、無粋とは思ったが手折ってきた……と、友雅は、その薄桃色の一輪を、あかねに渡そうとしたのである。
手渡すだけならば、何のことはないのであるが、一旦、あかねの髪に刺そうとした友雅は、それを止めて、あかねの襟元の合わせに差し込んだのである。
「ほら、顔映りがいい。この花びらの色は、神子どのの唇と同じ色だ」
言い終わらないうちに、友雅の指は、あかねの唇に触れている。あかねは真っ赤になっている。そして、あかねの耳元で、こう囁いたのである。
「あとで、この花の咲いている野原に行かないかい? とても風情があるところなんだよ」
こくん、と頷いたあかねに、詩紋が叫んだ。
「だめだよ、あかねちゃん。大方、この花が咲いている所に二人して行こうか、とかなんとか言ったんじゃない? 友雅さんと二人っきりで出掛けちゃダメだって、お付きの女房の人も言ってたでしょうっ」
相変わらず鋭い彼である。
「ぐ……」
と友雅の眉が一瞬、引きつった。
「詩紋くん、友雅さんをそんな風に言っちゃ失礼だと思う。友雅さんは、本当にきれいな野原を見せて息抜きさせようとしてくれただけなんだもん。石楠花やら牡丹やら、大輪の花もきれいだけど、小さなお花が好きだ……って前言ったことがあるから、それで、今日も摘んできてくれたの……」
あかねはそういうと自分の襟元にある花に、愛おしげに触れた。その様があまりに清らかで、それ以上は何も言えない詩紋なのであった。
「それでは、どうだい? 今日は、詩紋くんと私とで、神子どのとご一緒し、一条戻り橋の怨霊を封印した後に、野原を愛でに行こうではないか」
内心、あ〜あ…と思いつつも友雅はそう言った。
せっかく蘆の茂った場所などで、隠れたりしながら、
『ははは、私を捕まえてみなさい〜』
『友雅さん、どこ? きゃー、あかねを一人にしないで〜』
『どこにも行きはしないよ、さぁ、今度は神子どのが、逃げてみなさいっ』
『は〜い、隠れましたよ〜』
『神子どのは何処かな? ああ、捕まえたっ……もう離さないよ……』
…………などとしようと思っていた友雅なのである。
ともあれ、友雅とあかね、そして詩紋は、一条戻り橋に出向き、その後、くだんの野原に着いたのであった。
「うわぁ、本当、気持ちのいいところね」
賀茂川を背にして続く野原、茂った蘆の原を背に、所々に小さな花が群れるようにして咲いている。
「たんぽぽだよ、あかねちゃん、ほら、冠を編んだげるよ」
詩紋は、足下のたんぽぽを摘むと器用に輪を作り、それをあかねの頭に乗せた。
「とっても可愛いよ、あかねちゃん」
(詩紋は私以上かも知れない……)と不安になる友雅であったが、大人の余裕を見せつけるようにこう言った。
「少し私はここで休んでいるから、詩紋と遊ぶといい。あまり遠くに行かないよう、いいね?」
詩紋とあかねは元気よく返事をすると、笑い合いながら走っていった。まるで二匹の蝶のように二人ははしゃいでいる。ややすると、詩紋の声が聞こえてきた、が蘆の原にいるらしく姿は見えないようだ。
「あかねちゃーん、もういいよーっ。捕まえにきてー」
「やだ、詩紋くん、どこーっ?」
「こっちだよ、あかねちゃーん」
「あっ、見ぃつけたぁ」
………友雅は面白くなかった。それは、あかねと自分がするはずのシチュエーションではないか、と。
「じゃあ、今度は私が隠れるねー」
あかねの声が辺りに響いた時、友雅は立ち上がった。
「どれ……私も探してあげよう」
些か……大人気ないかも知れない、けれども男はいつだって少年の心を持たないとね……自分に言い聞かせて友雅は、蘆の原に向かった。
「あかねちゃーん、どこ〜?」
「ふふふ、知らない〜」
笑い合う詩紋とあかねの声のする方に進んだ友雅は、すぐ傍の蘆の中に、たんぽぽの冠を見つけた。
「ふふ、捕まえたよ……もう離しは……」
友雅は、いきなり背後から、華奢な腰に腕を回して耳元で囁く。
「と、友雅さん……いけない……」
「怖がらなくてもいいよ……ね、詩紋くん……って、え? 詩紋ーーーっ?!」
「このたんぽぽの冠のせいであかねちゃんと間違えたでしょう? 友雅さん……僕も同じものさっき作ったんだけど……」
詩紋は立ち尽くす友雅に、思い切り白い目を浴びせかけた。ここで引いては大人として、平安朝随一のタラシとしての沽券にかかわる……そう思った友雅は思わず……。
「間違ってはいないよ……詩紋くん、怖いのかい?」
「友雅さん……そっちの趣味もあったんだ……」
「ふふ、詩紋のような美しい少年なら、平安朝ではね、普通のことなのだよ」
確かにそれはさほど珍しいことではない。だがしかーし、橘友雅、産まれてこの方、男に対しては言い寄られたことはあっても言い寄ったことはない。女に不自由しなかったので、男まで手が回らなかったのだけなのだが。
「僕……遠慮しておきます」
詩紋がそう言って、内心ホッとする友雅であった。
「ふふ、私とてふざけただけだよ」
「やっぱり。やだなぁ、もう友雅さんってば」
「あはははは……」
「もぉ、あかねちゃんに言いつけちゃおうかなぁ」
「いや、なに、言うほどの事ではないよ、詩紋くん、ちょっとした冗談だからねえ」
「そうですよね、冗談なんだしー」
ぎこちない笑いを交わしあう二人であった。と、その時、詩紋が少し離れた茂みにあかねを見つけた。
「あ、あかねちゃん、見つけたッ。あ・か・ねちゃゃあーーん、あのねーっ、友雅さんがねーっ」
「し、詩紋くんッ!!」
「友雅さんがねーーーっ、…………そろそろ帰りましょーって言ってるよーっ」
橘友雅、一生の不覚であった……。
お・し・ま・い
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