その頃、ゼフェルの館では……。

「これなんか大きくないか?」ゼフェルはブカブカのハーフパンツをたくし上げつつ言う。

「だからー、このベルトでギュッと縛るんだよ」とランディはやって見せる。

「ねぇねぇ、でもこのベルトも長すぎるよ、もっと短く切った方がよくない?」

 とマルセルはベルトの端をブラブラさせて言う。

「まったく君たちは流行に疎いんだから、やになるよな。その垂れ下がったベルトがいいんだよ」

「ほんとかよー信じられねーぜ」

「つべこべ言わないんだよ、ほら帽子」とランディは二人にキャップを手渡す。黒地に赤で「YS」と刺繍がしてある。黒いトレーナーのまくり上げた袖口から派手な柄のシャツが覗いている。カーキー色したブカブカのハーフパンツ、ぶ厚いラバー底のスニーカーにずり落ちたソックス……。

「なんか……正義の見方というよりフツーのガキの服ってカンジ……」

「だよねー、なんかだらしないよねー ねぇ、どうしてもシャツの裾をトレーナーから出さなきゃいけないの?」

 とマルセルとゼフェルはいまいち気に入らない様子である。

「そんな事ないよ、すっごいカッコイイってば、ほらっ、背中にさ、それぞれの武器を掲げればもっとカッコイイと思うよっ」

「なんだよ、それぞれの武器ってお前よーアーチェリじゃねーか、オレのはスカッシュのラケットだぜ」

「まだいいよ、僕なんか何もないんだよ、チュピなんだよ、なんでチュピが武器なの〜」

「仕方ないだろ、俺たちが活動できるのは昼間だけなんだよ、昼間からジュリアス様たちみたいにマントや黒づくめのカッコしてたら目立ちすぎなんだ、それに剣やバズーカなんか担いでたら銃刀法違反で逮捕されるんだしさ、ヤングサクリアーズは爽やかさがウリなんだよ」

 とランディはたたみかける。

「なんだかランディに衣装を任せたのは間違いじゃねーか」

「つべこべ言うなよ、文句があるなら自分で作れよ」

「なんでーランディのくせによー、お前が衣装やる、って言ったんじゃねーかよっ」

「そうだよゼフェルなんかに任せたらダサダサのアニメヒーローみたくなるのはわかってるもんなっ」

「あンだとぉー」

「やめてよ、二人とも〜僕たちがケンカしてどうするのっ、そんな事より事件の打ち合わせしなくちゃ、週末には出かけるんでしょっ」

 とマルセルが言うとようやくゼフェルとランディは言い合いを止めた。

「早く事件の説明しろよ、お前の担当だろっ」ランディはソッポを向きながら言う。

「おー、言われなくてもするぜ、ちょっとよ、これを見てくれ」ゼフェルは机上のコンピュータ画面を指さす。

「青春GOGO!何でも打ち明けよう心の悩み相談室ぅ? 何だいコレ〜」

「青少年向けのホームページだよ、半年くらい前にオープンしたんだけどよ、結構シビアな悩みもあるんだ、イジメとかさ……オレこいつの事、気になんだよな」とゼフェルは画面を指さす。

「絶望のチョコボくん……?」とマルセルはゼフェルの指した部分の発言者名を読む。

「うん、こいつよー、イジメにあってるんだ」

「他にもいじめられてるヤツっているだろ? どうしてコイツなんだ?」

 ランディはイマイチ乗り気でないのか、ゼフィルに尋ねる。

「コイツ、体が弱くてしばらく学校を休んでたんだ、半年前にやっと復学できるっていう書き込みがあって、それから病気の事がきっかけでいじめられ出してさ、つまりはそのあたりの経緯をずっと知ってるんで、なんかほっとけなくてよー、それに第三ルアン中学なら結構、近いじゃねーか」

「やろうよランディ、こういう問題こそ僕たちが解決してあげたらいいと思うよ、ねっ」

 マルセルはすっかりその気になっている。

「しかたないな、じゃそれで行くか」

「おし、じゃあ、土の曜日の午後一時に正門に集合だぜ」

「ねぇ、外出届けには何って書くの?」

「三人で映画に行くって事にしとけば?」ランディは面倒くさそうに言う。

「タイトルはって聞かれるよ、ジュリアス様に。こないだみたくアダルトものって疑われたら僕いやだよ」

 ゼフェルは側にあった主星ぴあルアン市版をパラパラと捲った。

「名画座・愛のコリーダ……これにしとけば?」

 


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