翌日……。

 ゼフェルのゲームソフト紛失事件でお流れになったお茶会が本日行われている。昨日とは違って穏やかな雰囲気である。

「ともあれソフトも見つかってよかったですねぇ」

「う、うん、皆にも迷惑かけちまったよーで、あの、すまなかったと思ってる」

 とゼフェルはいつになく神妙になっている。

「結局、ベッドの下に突っ込んであったんだろ。なんでもそんなとこに突っ込むなよな」

 ランディはクックッと肩を震わせながら言う。

「だーっ、おめーにだけは言われたくないよっ」

「あ、こらこらゼフェル、ランディも昨日は心配してくれたんですから」

「だけどよ、どーもなぁ、オレあんなとこに入れた覚えないんだけど」

 ゼフェルはどうも納得できないような顔で首を傾げる。

「まぁ、よいではないか済んだことだ、これからは整理整頓につとめればよい」

 とジュリアスはツンと顔を上げ澄まして言う。

「そうそう、そう言えば今朝の新聞に載っていましたが、サクリア仮面を主人公にしたゲームソフトが発売したそうですねー、ゼフェル、またこっそり聖地を抜け出して夕べ、買いに行ったんじゃありませんか?」お見通し……とばかりにルヴァはにこにこしながら言った。

「そ、そんな事しねぇよ、それにどーせすぐまた、サクリア仮面2が発売されるんだしよ」

「サクリア仮面ゴールドが登場したもんね、ゲーム会社の人ってば慌てたんじゃないかなぁ、でも面白そうだよね、僕にも貸してね、そのソフト」

 マルセルに屈託なくそう言われてついゼフェルは、

「おー、マルセル、けどオレが終わってからだぜ」と言ってしまった。

「ってやっぱり買いに行ったんじゃないか」

「るせー。おめーには絶対に貸してやらないからな、ランディ」

「けど、サクリア仮面ってさ、ルックスがね〜、イマイチよね」

 三人が騒いでいるのを余所にオリヴィエがシラッとして言った。

「ほう? どのようなところが?」とジュリアスはムッとして問う。

「んー、衣装がねダサダサ、まずシルバーっていうのかな、前からいる方だけど黒いマントはお約束としても黒いタートルネックシャツに黒いスラックス、ちょっちシンプルすぎるよね、ゴールドとかいう方は白いブラウスに乗馬用のパンツみたいなのだけど、なんか間に合わせって感じ」

「そうだよな、正義の味方ってもっとこうバックルがドーンとついてたり胸のとこになんかマークが入ってたりとかなー」とゼフェルも追い打ちをかける。

「でしょ〜それからさ新聞の写真でしか見たことないから、よくわかんないけどこの仮面もなんかチャチだと思わない?」

「ほら、ずっと前に仮面舞踏会に行った時に使った仮面をちょっと加工してあるだけって感じするよね」ランディも情け容赦ない。

 若手三人組とオリヴィエがサクリア仮面のこき下ろしで盛り上がっている間、その横でルヴァは我感せずと焼き菓子を頬張っている。

 一方リュミエールは元気がなく物思いに沈んでいる、オスカーはそのリュミエールが気になっていた。クラヴィスは無関心を装って、オリヴィエたちの話を聞き入っている。

ジュリアスは、これ以上聞くに耐えぬとばかり立ち上がり、

「では本日のお茶会はこれまでとしよう、失礼する」と言った。

 ドアを開ける間際、クラヴィスをチラリと見て(話がある)とばかりに目で訴えた。ジュリアスが退室するとクラヴィスものろのろと立ち上がり、何も言わずに出ていった。その様子を溜息をつきながら見ていたリュミエールはオスカーに向かって「お話があります、わたくしの執務室へ……」と小声で言った。

  

 リュミエールの執務室……。

「元気がないようで気になっていたんだが……どうした?」

「ええ、実は……ゆうべ、食事の後、クラヴィス様にハープをお聞かせしようと思って、闇の館に伺ったのです。そうしたらまだお戻りでなかったのです。天体観測所にもいらっしゃいませんでした。執務室でそのまま眠られる事もあるので行ってみましたが、どこにも……」

 と深い溜息をリュミエールはついた。

「そりゃ、まぁ、なぁ、リュミエール、クラヴィス様だって男だから、そのう、聖地をこっそり抜け出して主星で、ちょっと……って事もあるんじゃないか」オスカーはニヤリとして言う。

「貴方と一緒になさらないで下さい」

 キッとオスカーを睨みつけるとリュミエールは意を決したように言葉を続けた。

「主星で夜遊び……の方が気が楽かもしれません……」

「それはどういう意味だ?」

「気になって眠れなかったので今朝、私はいつもより早く執務室に参りましたら、ジュリアス様の執務室からクラヴィス様が出て入らしたのを垣間見たのです」

「何っ……しかし何か所用があっただけかも知れない」

「いいえ!御髪がとかしてありませんでした」と言ってしまうとリュミエールはまた溜息をついた。

「ジュリアス様とクラヴィス様が……そんな……」オスカーもまたガックリと項垂れた。


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