次の日の曜日、私はジュリアスとはじめての遠乗りに出掛けた。私は少し前から、ジュリアスに乗馬を習っていた。二人で出掛けられたら嬉しいな、と思って。遠乗りといっても、ジュリアスがオスカーと一緒に出掛けるようなコースではなくて、宮殿の回りと森の途中まで程度のものだったけれど、二人っきりで宮殿の外に出掛けるなんて、女王試験の頃以来で、とっても嬉しかった。
「そこの小川で少し馬を休ませよう。そなたも疲れたであろう?」
ジュリアスはそう言って馬から降りた。私もあとに続く。
「随分、上達したな」
ジュリアスは馬たちの手綱を引いて、小川へと先導した。馬たちは仲良く小川に鼻先を突っ込んで美味しそうに水を飲んだ。ジュリアスはその傍らの頃合いの木陰に座る。私も。
「この先の山の中腹あたりまで行けるかしら?」
「岩場もあるし、そなたにはまだ無理だな」
「とても綺麗な所があるのでしょう? 前にオスカーが言ってました」
「ああ、山の麓に野生の花が咲き乱れている場所があって、なかなか良いところだ」
「麓までなら、私にも行けないかしら?」
「しかし、坂道になるから、しっかり手綱を御さないと難しい。岩場も通る」
私はちょっとガッカリした。ここで馬に水を飲ませてやると、もう引き返さなくちゃならないと思うと。ジュリアスはもう立ち上がって、私の馬の手綱を取った。
「そなたの馬には、しばらくここで待っていてもらおう」
ジュリアスは、にっこり笑って私の馬の手綱を木の枝に括りつけた。
「私の馬で行こう、手綱の取り方を後ろから教えるから」
(嬉しいな)私は、ジュリアスの愛馬の鼻先を少し撫でてから、その背中に乗った。ジュリアスも私の後に乗る。次にはちゃんと自分で乗れるようにしっかり教えてもらわなくちゃ。背後からジュリアスの腕が伸びてきて、手綱を持つ私の手に重なる。それから、私たちは必要な事以外あまりお話しせずに、山の麓まで来た。ゆるやかだった坂道が、少し急になって登り切ったところに、その野原はあった。小さな色とりどりの花の絨毯。とてもとても綺麗。
「うわぁ素敵、こんなところが聖地にあったなんて」
「いつか見せたいと思っていた。気に入ってもらえて私も嬉しい」
耳元でジュリアスが言った。そしてそのまま後から抱きしめてくれた。こんな風にされるのって初めてで、馬に乗ってるってこともあって、なんだか体がふわふわしてしまう感じ。
「アンジェリーク、愛している」
どこからか、ううん、確かにそれは背後からなんだけど、空から降り注いできたみたいに聞こえた。
「よくよく考えたのだ。皆にそなたとの事を話そうと思う。先の事は考えまい、ただ一時の事でも、けじめをつけたい。出来れば婚姻という形を取って誰に臆することなく、そなたと共にありたい」
私は嬉しくて頷くしかなくて……そして、涙がポロポロと出て……。
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