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闇の館にもどった二人は、薔薇図鑑に署名をした。 まず、クラヴィスと。その後に、ジュリアスと、揃って名前を書き入れた。 「馬車を先に返してしまった。そなたのところの馬車を借りたい」 と、ジュリアスは言った。 そして。 「そなたの名のついた薔薇は、今が盛りだ。」 と、付け足した。 「今日のお前は、まわりくどい、な。誘っているのなら、ハッキリと言え。共に見に行ってやらないでもない」 クラヴィスはそう言うと立ち上がり、応接室の扉を開けた。彼らしからぬ大きな声で、馬車を表へ用意するようにと、側仕えに告げると、憮然としているジュリアスを見た。 「マルセルの所に寄っていこう。これを返さねばならぬ。それに、私の名前の付いた薔薇のことも教えてやらねばならぬ。きっと喜ぶであろう」 図鑑を抱えて立ち上がったジュリアスが言った。 「薔薇図鑑か…………」 と、クラヴィスは、改めてその表紙の金文字を読んだ。そして、俯いて、フッ……と笑った。 「判らないことがあれば、まず図鑑で調べよ、と……」 クラヴィスは呟いた。 「教育係の者に、よく言われたな……。私としたことが迂闊であった。もっと早くに、緑の館に行き、調べていたならば、毎年、悩まずにすんだものを」 ジュリアスは、眉間に皺を寄せながらも、笑って言った。 「まったくだ」 長年の小さな謎が解けた、その爽快感が、二人の表情を殊の外、明るいものにしていた。
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