古い記憶が二人の心に蘇る……。
聖地の森、その木陰のベンチに座って若い恋人たちが談笑していた。互いの手が握られており、小さな笑い声の合間に二人は軽く口づけを交わしてはまた話だす。ジュリアスとクラヴィスが近くまで歩いてきたのにも気づかずに。
「あれは……ジュリアスの所の執務官ではないの? 女の人は宮殿の女官かな」
「クラヴィス、二人の邪魔をしては悪い。回り道をしよう」
ジュリアスは道を引き返し、クラヴィスは半歩遅れて後を追う。二人は恋人たちが見えなくなった所まで引き返し、別の道から湖へと向かう。
「あの二人は愛し合っていたのだな。知らなかった」
歩きながらジュリアスは呟いた。
「それは何か都合が悪い事なの? もし私の執務官だったら注意しないといけない事?」
守護聖としての自覚を持たねばならない……とジュリアスが口癖のように言っている事を思い出し、クラヴィスは尋ねる。
「いいや。ちっとも悪い事ではない。今日は休日だ。時と場所を選べば問題はない」
ジュリアスの大人びた答えにクラヴィスは、そうなのか……と納得する。
「うん。楽しそうに口づけしていたものね。小鳥がくちばしを合わすみたいに」
「愛する者同士なら当然の事だ」
「僕たちも口づけした方がいいのかな……」
と呟いたクラヴィスに、ジュリアスは思わず立ち止まって振り向いた。
「何故?」
「光と闇の守護聖は共にひかれあう者同士だし、特別に仲良くしないといけないって言われてるし、だいいち僕はジュリアスが好きだから……」
少し仲良くの意味が違う……と思いながらも、好きだと言われたことが心地よく感じられてジュリアスは軽く頷いた。
「主星では親しい者同士、挨拶代わりによくキスをする。こんな風に」
ジュリアスはクラヴィスの頬にキスをした。キスと口づけはどう違うのだろう……と思いながらクラヴィスはジュリアスを見つめ、少し首をかしげた後、ジュリアスの唇に口をつけた。
頬や手にするのとは違う……とジュリアスとクラヴィスはなんとなく判り、何かしら気恥ずかしい感情が溢れ出す。黙ったままジュリアスが歩き出すと、クラヴィスはやはり半歩遅れてついて行く。湖が見え、何気なくジュリアスが振り返るとクラヴィスの目に涙が溜まっている。
「どうしたのだ?」
「何かいけない事をしたように思う……ごめん……」
「謝らなくていい。私とそなたは……仲が良いのだし。その……時と場合を選べばいけない事ではなかったはずだから」
「……なら良かったけど」
ホッとした顔で微かな笑顔を見せたクラヴィスに、今度はジュリアスから口づけた。いけない事ではないと思いながらも、やはりどこかに後ろめたい気持ちがあった。触れてはいけないと言われたガラス細工に、内緒で恐る恐る指を滑らせた時のような……。
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