とそこに……事もあろうか、チャーリー・ウォンその人がやってきた。
「お、なんや。珍しいメンツでお茶してるやんか〜。なんなん? 何の集まりなん?」
何も知らないチャーリーは、ツツツーと彼女たちのテーブルに寄ってきた。
「ジュリアスを好きな者同士、たまにはお茶でもと。ね?」
美形二人に合図をするようにオンディーヌは言った。
「あ〜、そーゆー共通点か〜。そやなあ、ジュリアス様を巡ってのクリスティーヌとレイモンドの小競り合いは社内でも有名やし、まあ、お茶でもして仲ようしたらエエやん。二人とも美形なんやし、いっそ付き合うたら、ど?」
のほほんと言うチャーリーの見えないテーブルの下で、二人は握り拳を作っている。
と、さらにそこへ人事部長がやってきた。先代と同郷の古参で、子どもの頃から、チャーリーとは「おっちゃん」「ボン(坊ちゃん)」の仲である。
「お、コーヒーでも飲もと思もて来たら、ボンやないですか。もう仕事しまいでっかー? 何、してますねん? おや、いつっも一緒のジュリアスは?」
チャーリーに輪をかけたコテコテの方言で質問攻め。。
「水曜日はジュリアス様は、社内ジムの日やから別行動や。会社でボンは止めて言うてるのに。オレかて、ちょっとジュースでもと思てな〜」
「はいはい、すいませんね。それよか、それやったら、いっそ、ちょっと一杯どうでっか?」
親指と人差し指で輪を作りクイッと飲む仕草をする人事部長。
「お、ええな」
「最近、エエとこ見つけましたんや。ガード下の赤ちょうちんでんねけど、これがまた旨いおでんを食わしよるんですわ」
「真夏におでんとはチャレンジャーやな〜。牛すじ、あんのん?」
「おま(あります)。モツ煮もこれがまたイケまんねん〜。それだけやおまへんで。ナイショやけど、頼んだら、お土産にたこ焼き、作ってくれまんねや」
「うわ、マジ。ごっつうエエ店、見つけたやないか〜」
「そうでっしゃろ。教えたんやさかい今日はボンのおごりでっせ」
「なんでやねん、そこは年長者のおっちゃんのおごりやろ」
「ボンは上司やねんし、たまには部下のワシにおごってもらわんと。それにワシのとこ、家のローンもまだ残ってまっさかいな。無駄使いしたら嫁はんにしばかれまんがな」
「しゃーないなあ、ほな、今日はオレおごるわ〜。そやけどお土産のたこ焼きは、自分で買いや〜」
「そこはボンが、奥さんに……言うてワシに持たせてくれるのが気配り言うもんやがな」
「なんで今更、オレがおっちゃんに気ぃ配らなアカンねん。そんなんすんねやったら会社の前で社名入りのティッシュ配るわ!」
「よういわんわ……」
二人がとても楽しそうに去って行くのをオンディーヌ、クリスティーヌ、レイモンドは、まさに呆然として見つめていた。
「う……うううう、鳥肌たってる〜」
クリスティーヌは必死で腕をさすっている。
「ボスのビジネスでの手腕は認めるけど、……あれが……ジュリアスのパートナーだと思うかい?」
ボスにあれがよばわりだが、誰も突っ込まない。
「とうてい思えないわ! でっせ、とかまんがなって何よ。やだ、蕁麻疹」
首筋をポリポリと掻きながらクリスティーヌ。
「そ、そうね……昨日の駐車場での事は、別にどうってことない挨拶程度の事だったかも。ボスが親戚のお兄さん……ジュリアスに一方的に甘えたのを、ジュリアスが窘めただけみたいな……」
言い出しっぺのオンディーヌもそう言い出した。
「……」
「……」
「……」
妙な間が開いた後、三人は同時に「ハァ……」とため息をついて、冷めたお茶を飲み干した。一気に核心に近づいたはずジュリアス同盟だったのだが、
その後、お茶会が開かれることは二度となかった……。
一応は、おわり……でも……↓
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