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さて、フィリップのマンションから見える主星星都の中枢部の夕景を眺めつつチャーリーは小さなため息をついた。
「チャーリー。申し訳なかったね。疲れているのに誘ってしまって……」
「え? ああ、ゴメン。疲れてるってわけじゃないんだ」
チャーリーは困り果てた表情でそう言った。
「でも……とても無口だし……その何か……話し方も……変なようだし……」
今度はフィリップの方が困った顔をした。
「私が説明しましょう」
と助け船を出したのはリチャードソン・ザッハトルテである。
「今週、我が社ではウォン・サミットと呼ばれる、他星の子会社、関連会社の代表が集まっての全体会議があったんです。最高経営責任者であるチャーリーは各分野ごとに月曜から木曜までビッチリと会議と懇親会漬け。ほとんどがチャーリーよりも年上の各代表を相手にするのに、いつもの方言全開の話し方ではどうかと思われますので、方言を封印して正式な発音の主星語のみだったんです。サミットは無事終わったものの頭の中で言語切り替えができなくて、この有様なんですよ」
「というわけなんだよ、フィリップ〜。頭と口と心がシンクロしなくて喋り辛いんだ。こんな俺、俺じゃないだろう?」
チャーリーは心底情けない顔をして言った。
「こんな俺、俺とちゃうわ……って言えないんだね?」
少し違うアクセントでフィリップがそう言うと、「うん……。コンナオレ、オレトチャウワ……ってなってしまうんだよ〜。こんな発音、違うぅぅ〜。うう、自分で自分が許せない」
と口を押さえるチャーリー。
「前回のサミットの時も終わった直後はこんな風でした。何かのキッカケで元に戻りますから心配しなくてもいいですよ」
ザッハトルテがそう言うとフィリップだけでなくジュリアスもホッとした様子だ。
「会議中だけの事だと思っていたら、それが終わってもこのままだったので心配したが……」
「ジュリアス様にも心配かけてもうててて……あうあう……ダメだ……いつもの調子で何か言おうとすると舌がもつれる〜」
「無理するでない」
「そうだよ、チャーリー。気にしないで。さあ、ワインを飲もう」
フィリップはミドリーノカティスの栓を抜き、レアワインを皆に振る舞った。
「ありがとう、フィリップ。今日の所は申し訳ない。元に戻ったら絶対、一席設けて、笑わせるから……あ……やっぱり美味しいね、ミドリーノカティスのワインは」
お笑い担当のチャーリーがこれでは、当然会話は主星の経済動向などいつになくお堅い内容になり、良いのか悪いのかいつになく有意義な時間が二時間ばかり過ぎた所で、お開きになったのだった。
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