宇宙に名だたるウォン財閥の中枢である本社ビル。その最上階フロアにある社長室には、チャーリー・ウォンが執務を執る為の部屋の奥に、彼のプライベートルームがある。ベッドとクローゼット、シャワールームと最低限の生活設備を整えて作られたものであるが、そこらのビジネスホテルとは比べものにならない最新設備と豪華さである。窓の外からは主星星都の町並みが一望出来る。行き交うエアカーの走行高度よりも、
遙か最下層エリアの町並みが歪んで見えているのは、真夏の熱気のせいだ。チャーリーはそれを見ながら、溜息と共に窓ガラスに手を突く。八月の太陽の熱さが
伝わってくる。
「帝王の怨恨……」
チャーリーは、そう呟くと
振り返った。窓の外の気温とは無関係の、ほどよく空調が効いた室内には、彼の最愛のパートナーであり第一秘書でもあるジュリアスと、旧知の仲であ
り何だかんだと言っても頭の上がらない副社長リチャードソン・ザッハトルテが立っている。
「一体、昼休みにこんなところに呼び出して何なんです?」
ザッハトルテは、露骨に嫌な顔をして言った。
「見て欲しいモンがある。その前にちよっと経緯を聞いてや……」
珍しくシリアスな口調で、チャーリーはゆっくりと話し出した。
主星時間帯で五百年ほど前、ラムダ星系域のある惑星に動乱が起き、幾多の国が滅び、ひとつの惑星国家が誕生した。類い希なカリスマ性を持ったその国家の指導者ガラドゥは、残虐な恐怖政治を敷く。自らを帝王と名乗る彼の野望は留まるところを知らず、近隣の惑星を掌握しつつ帝国は巨大化した。ラムダ星系にある主だった十の惑星をその配下に治めたのち……
「……ガラドゥが密かに標的に据えたのは、主星やったというわけや」
チャーリーは、そこで一旦、話を止めた。ザッハトルテがすかさず、「いくらなんでも主星とは……」と肩を竦めた。
「そう。なんぼなんでもそれは無理。ラムダ星系で強大な力を持ったと言うても、科学力の差もあるし、辺境の星域から主星域にやってくるだけでも莫大な予算、それに時間もかかる。所詮は、ガラドゥの夢……妄想や。それは
彼自身にも判ってたんや。それで、これを造らせた……というわけやな」
チャーリーは、テーブルの上にドンッと置いてある一抱えほどの物体の上に掛かっている布を取り去った。
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