【虚無の壺】とは守護聖が、そのサクリアを宇宙に解き放つ為の受け口であった。壺の中は宇宙空間に繋がっており、守護聖や女王でさえわからぬ未知の空間であった。ただ一日に一度、体の中に溜まったサクリアを祈りを込めて放出すれば、それが全宇宙の成り立ちに関わるとだけしかわかっていない。
慣れぬうちはサクリアが、体に溜まりその受容量の限界が見切れず、壺に辿り着くまでに漏らしてしまったり、寝ている間など知らぬ間に漏らしてしまったりするのだった。
が、やがて守護聖にも慣れると、ジュリアスのように己の定めた時間にサクリアが満タンになるようにコントロールできるようになる。クラヴィスの場合は夜、眠る前に放出する事が常であった。
「漏らしたと言ってもごく少量っ、それにしても…」
「女王陛下が、また情緒不安定になっているのだろう」
「やはりそう思うか……困ったものだ、早く慣れてもらわねば困る。私のサクリアにまで影響があるとは……」
ジュリアスは憂う。アンジェリークが新女王となって、聖地時間で一ヶ月、時折、予測外の天候不良などが起きる。それは決まって新女王となったアンジェリークの情緒が不安定な時である。ジュリアスとクラヴィスは並んで立ち、瞳を閉じて、ただ溜まったサクリアが、全て壺の中に放出されるのを待っていた。
とその時、慌ただしく駆け込んで来たのはランディである。
「あ〜来た来た来た来た〜っ、ああっ、ジュリアス様、クラヴィス様っ、俺も一緒に使わせて下さいっ、突然サクリアが湧いて来て、どうしようもないんですっ」
「そなたもか、早くせよ、クラヴィスもっとそっちに寄るがいい」
「まったく気が散る……」
「すみません、あー間に合ってよかった。神聖なサクリアを漏らしてしまったらと思って焦りましたぁ、はぁぁ〜、これってやっぱり女王陛下のせいですか?」
ランディは壺の中に両手をダラリと入れてホッとしたように言った。
「そうらしい、他の者は大丈夫なのか?」
「はい。マルセルとゼフェルは何ともないようで、俺だけが急に〜。は〜スッキリした、じゃ、お先に失礼します」
サッパリした顔でランディは去って行った。
「若い者は早いな……」
「早ければよいというものでもないだろう、貴重なサクリアだからな、丁寧に出さねばならぬ」
ジュリアスは、ツンと顔を上げて言う。
「……それでは、私もそろそろ引き上げるとしよう……」
クラヴィスは、壺から手を引いた。
奥の間から出て行こうとして、クラヴィスはふと振り返りジュリアスを見た。
「……それにしても、長すぎないか?」
クラヴィスは、まだ壺の中に手を入れているジュリアスに声をかけた。
「……何かおかしい、サクリアが尽きぬ」
ジュリアスの顔色が見る見る蒼ざめてゆく。思わずクラヴィスは壺に駆け寄った。
「先ほどから随分サクリアを放出しているが、体から空になる気配がないのだ」
ジュリアスの手からは、黄金色のサクリアがほとばしり出ている。