◆もしも……◆

【前 編】

 

  明日は聖地を去る……その夜「そなたは何処へ?」と、ジュリアスはクラヴィスに問うた。 聖地から去った後、いったん故郷に帰る守護聖がほとんどである。守護聖の任を解かれても、しばらくの間なら次元回廊を利用することだけは許される。故郷で自分の行く末を考えて、どうするかを決めるものが多いのだ。そのまま故郷にとどまり普通の人としての人生をまっとうするもの、新たな土地に行き、新しい生き方を選ぶもの、カティスのように、その特権を利用し旅を続けるもの。だが、クラヴィスにはその故郷はない。

「そうだな……水晶球が示す星にでもとりあえず降りて見ようと思う」
「水晶球が示す星?」
「ああ、辺境の小さな星だが、私を誘う何かがある……お前は主星にか?」
「いや……主星にはとどまらぬ」
と、この決意を初めてジュリアスは口に出して言った。

「主星には、まだ私と血縁のある実家が残っている、戻れば手厚くもてなされ高い地位と責任ある仕事を望むこともできよう……だが……」
「新しい人生を望むか?お前にとっては辛い選択になるかも知れぬ」
「ああ、わかっている、だが私はいつも顔を上げて生きていたい、新たな土地でも私は勝者となる」
「ふっ……誇り高きサクリアか……やっかいなものを持っているな」
 いつもなら感に障るクラヴィスの言い回しにも微笑み返せる余裕にジュリアス自身が驚く。

「予定がないなら、一緒に……行ってみるか……この星へ?」
 クラヴィスは水晶球を顎でしゃくり、小声で呟いた。ジュリアスはハッとしてクラヴィスを見、そして答えた。
「それも……一興か」


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