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「むう……」
クラヴィスは、微かな唸り声をあげて起きあがった。もう飛空都市の執務室に出向かなくてはならない時刻だった。女王試験の間は必ず9時に執務室に入るようにとのジュリアスの言い渡しを、クラヴィスは嫌々ながらも守っていた。適当に身支度を整えると、側仕えがコーヒーを持参してくれ、飲んでいる間に髪もとかしつけてくれる。ありがたいことだ……と思いながらクラヴィスは、何も言わずに立ち上がり、館の外に出た。
小川を挟んで向こう側、ゼフェルが今、まさにエアバイクで飛び立とうとしているところが見えた。
「よー、あんたも遅刻かよ、乗ってく?」
ゼフェルの冗談半分の問いかけに、少し考えてクラヴィスは頷いた。 いつもならば多少の遅刻など気にするクラヴィスではない。だが、昨日の夕方、アンジェリークが『明日朝一番にクラヴィス様の所に育成に伺いますね、大陸の皆が安らぎのサクリアを欲しているみたいなんです』と言ってたのを思い出したのだ。
「マジ?」
ゼフェルはエアバイクを軽く浮かせて、小川を渡ると、クラヴィスに後ろに乗るよう顎で合図した。
「オレたちの館が飛空都市へのゲートまで一番遠いもんな、あんたの足じゃ歩けば小一時間かかるんぢゃねーか?」
ゼフェルはそういうとエアバイクを発進させた。いつもの調子で聖地全体が見渡せるほどに高度を上げる。
「う……」
クラヴィスは思わずゼフェルの腰にしがみついた。
「なんだよ、やけにしっかりしがみつくじゃねーか、はじめて、なのか?」
「ああ……結構、高く飛ぶのだな」
クラヴィスの声か少し上擦っている。
「怖いのかよ、じゃ、少し高度落としてやっからさ」
「親切なことだな……」
「いきなしで嫌いになられちゃー、嫌だかんな。」
「何を今更。お前の事なら前から快くは思っていないぞ」
「バ、バカ、誰がオレの事って言ってんだよ、エアバイクだよ、バイク。危ない乗り物だとか決めつけられるの嫌っていう意味だ」
「そうか……それならば、慣れればなかなか心地よいものだと思う」
「だろ。景色もキレイだしよ」
「遅刻しそうな時は私も愛用しようか……アレの小言を聞く回数が減るのならよいと思うが」
「はははは、違いねぇやー、あのなー、もちっと手ゆるめてくれ、苦しい」
「すまぬ……」
「うん、そんくらいな」
そして二人を乗せたエアバイクは5分ほどでゲートに着いた。
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