第二章 再 会

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 車窓の景色が、夕焼けに染まり出した頃、列車は、最初の駅に到着した。ダダスとの中間地点にある小さなこの駅では、荷物の積み卸しをするためにほんの半時間ほど停車 しただけで、次のダダス駅へと向う。ルヴァは、この半日の間に、ジュリアスたちが何者であるかと、東の国の成り立ちを大雑把にではあるが教えて貰っていた。
 西の諸国、とりわけダダスやスイズといった大国と比べれば、やはり東の世界は、 医学や技術面などで随分遅れている。だが、決して、皆が思ってるような、粗野な暮らしをしているわけではないことも判ったのだった。
「クゥアンという国の政治的能力は、とても高い。スイズやダダスよりも安定しています。そんなに長きに渡って続いている王朝を私は知りません」
 ルヴァは、クゥアン国が、二千年近く続いていると知り驚く。
「スイズやダダスも古い国なんでしょ? どれくらい?」
 オリヴィエが、問いかける。
「双方とも国としてはそれなりに古いのですが、ひとつの……血の繋がりのある王朝としては、せいぜい二百年程度ですよ」
「大国になっていく過程で、必ず民の事を思わぬ暴君が出るんだ。で、討たれるんだな。東でもクゥアン以外の国は、大抵そうだ」
 オスカーの呟きに、ルヴァは頷く。
「例えば、ダダスですが、この二百年の間に、国が滅びぬまでも、何人かの王が討たれています。その後は、辛うじて血縁関係のあった者が、王座に着くなどして国としての対面を保ちつつ、現在に至っていますので、王族の力はあまり強くありません 。クゥアンのように、二千年 もの間、一人の暴君も出ず、延々と親子間で王座が守られているのは、考えられないことですよ。まるで……」
 と言いかけたところで、ルヴァは、ふいに口を噤んだ。
“まるで、教皇様の一族のようですね” と言おうとしたのだ。教皇一族が、聖地からの力とされる闇のサクリアを相伝しているが為に、二千年に渡って、この地で崇拝され、教皇として在り続けているように、 クゥアン王家の一族もまた、何らかの聖地からの力を得ているのでは……と。ルヴァは、背中にゾクリ……としたものを感じながら、目の前にいるジュリアスを見る。
「どうしたのだ?」
「いえ。何でも。申し訳ありません……」
 曖昧にそう言ったルヴァに、オリヴィエが「ふうん……」と呟いた後、言葉を続けた。
「ねえ、ルヴァ殿、貴方は他の人たちと、随分違うね。他の人たちは、東から来たワタシたちには、余り興味がなくて、教皇様の言い付けだから親切に接してくれていただけだったけれど ?」
「彼らの態度に悪気はないんだと判っていても、何かなあ……」
 オスカーも、そう付け加える。
「いいえ、興味がなかったわけではないと思います。ただ、貴方達のいらした東の地は、不可侵であるようにという教皇の教えがあって、それに背くわけにはいかないと思っているのです。迂闊に接するといけないのだと、 子どもの頃からそう教わっていますから」
「何故、そのような教えがあるのだ?」
 ジュリアスの問いかけに、ルヴァは、また一瞬、黙り込む。聖地を知らず、その身に聖地の存在が染みついていない彼らに、どこから話せばよいのか……と。
「聖地、聖地って言うけど、それは天のこと?」
 オリヴィエは、真上を指さして言う。
「俺たちだって言うよな。天からの使いとか、天の恵み……とか」
 オスカーも、指を上に向けてそう言う。
「そういう漠然としたものではないのですよ……。聖地は、確かにそこにあって、私たちの世界を……」
 ルヴァは話しているうちに、次に何と尋ねられるかが判ってしまい、語尾が弱くなっていく。
「そこって、どこ? その教皇庁の中にあるの?」
 やはり間髪を入れずに質問してくるオリヴィエに、ルヴァは困った顔をして、指を上に向けた。
「やっぱり、天……に?」
 オスカーが、釈然としない顔で呟いた。
「あのですねえ。天は天でも、何というか……。実際の所、誰も行って帰って来たことなどないんですから判らないんですけどもね……。ふう……」
 ルヴァは、少し考えて、結局、昔、まだ幼い頃、村の集会所で教わったのと同じ説明で、聖地というものを、ジュリアスたちに説いた。
「聖地には、この世界を統べていらっしゃる女王陛下と、特別の力を持つ神のごときお方たちがいらっしゃいます……」
 西の大陸の者なら、誰しも諳んじることのできる話を、ルヴァは静かに語った。それをジュリアスたちは、どう受け止めてくれるのか、と思いながら。 
 

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