１４

　　
　ルダから教皇庁管轄地に入ったスモーキーたち一行は、森を抜けた後、まだ明け切らぬ早朝の荒野をしばらく進み、採掘現場にほど近い林の中に身を隠した。切株に広げた地図の周りに集まり、彼らは顰めっ面をして話し込んでいる。これから進む道を話し合っているのだった。ルヴァも、リュミエールも管轄地内の地理は、まったく判らず、教皇庁に向かうルートは、彼らに任せるしかなかった。
「これが大陸横断列車の線路だ。なるだけこの近くを進みたい。道がいいからな。けど、各駅の付近は、兵士や役人がいるだろうから、そこら辺りは避けるとして、どこを通れば一番いいか……」
　スモーキーらが眺めている地図には、細かに記号が書かれていた。
「何の印ですか、これ？」
　リュミエールは、見たことがない記号を指さして尋ねた。
「採れたダークスは、一旦集めてから駅に持って行き、加工現場のある場所まで列車で運ぶ。そのための集荷場の印だ。ダークスはお宝だ。つまりこの印の付近は、見張りの役人や兵士が必ず多目にいる」
「なるほど、そういう場所は通れませんね……」
　ルヴァは頷いた。
「こっちの印は、ここから一番近い採掘現場だ。この林を抜けた所にある。パメス鉱山の東の第一現場って言うんだ。その近くにある印は、町。ここには、残り少なくなった乾物の調達に立ち寄りたい。様子見に行ってるゼンたちにも幾つか買ってくるように言ってあるんだが、あ んまり大量に買い込むと怪しまれるからな。ヤツらが、明日の朝に戻ったらすまないが、お兄さん方が町に買いに行ってくれ」
　スモーキーがそう言った後、他の男が「現場の連中、どうしてるかな……」と呟いた。
「その第一現場は、スモーキーさんがいらした所ですか？」
　ルヴァが尋ねると、スモーキーは頷いた。別の男が心配そうな顔をして、 「この現場には、俺の弟がいる。俺が役人に煙たがられてたんで、弟も目の敵にされてる。一緒に教皇庁に連れて行けねぇかな……」と言った。
「そいつは無理だぜ。どうやって連絡を取るんだ？　俺たちは死んだことになってる。生きていると知れたら、また……」
「それによ、現場から許可なく出た者には、咎めがあるんだぜ、追っ手がかかる」
　口々に他の男たちが否定する。
「あの……鉱山で働く人たちは、自由に動けないんですか？　罪人以外の人も？」
　リュミエールが、そう問うと大男が鼻先で笑った。
「世間知らずな坊やだな。半年とか一年単位で契約書を交わすんだ。細かい素性やらは一切問わねぇ代わりに、その期間内は、その採掘現場の所有物と見なされて勝手には出られねぇんだよ。最悪の場合、捕まってその場で処刑されても、事故で処理されればそれまでのこと。鉱山で働くってのはそういう事だ。中には罪を犯して自業自得なヤツもいるし、稼いだ金で旅を続けているお気楽な若いヤツもいる。けれど大抵は、貧しさ故に仕方なく働いてるんだ」
“鉱山で働く人たちの命もまた、物のように扱われている……”
　大男の言葉に、リュミエールは、悲しくなり俯いた。

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