第二章 1


 燭台と暖炉の炎が揺らめく中で、クゥアン王ジュリアスは、杯を手に、書物を開いている。幼い頃から手元に置いて何度も読み返した自国についての歴史書である。大陸のほぼ中央に位置するクゥアン王国の歴史は、いずれの時代も華々しいものであった。額にかかった髪を掻き上げると、ジュリアスは 、静かにその頁を捲る……。

 ジュリアスの祖先、初代クゥアン王は、金の髪を持つ者であったと、そこには記されている。そして、狩猟のみに頼って生きていた人々の間に、農耕を定着させ、中央の肥えた土地にその王国を築いた。以来二千年 近くクゥアンの国は、滅びることなく、そこに存在している。

 そして、ジュリアスの祖父は、行動的で野心家な王であった。彼は近隣の小諸国をその配下に治めると、西にあるモンメイ国に興味を持った。高くそびえ立つ大山脈の麓に広がる国。脅威となる国かどうか視察を兼ねて、王は、数名の共を連れてモンメイを内密に訪れた。その大半は荒野で、点在した自治区が、あちらこちらにある粗野な国という印象を持った王は、いましばらくは捨て置いても良いと判断した。それよりも王の興味を引いたのは、目の前にそびえる山の大きさである。それに圧倒された王は、好奇心から、裾野に広がる森に足を踏み入れた。そこで……王は思わぬ拾いものをした。

 愛らしい女の赤子である。しかも、金色の髪をその赤子は持っていた。人気などまったくない森の中で見つけた金の髪の赤子の存在は、当然の如く、天からの使者とされ、大切に養育された。成長して後、王は、自分の息子と結婚させ、生まれたのがジュリアスであった。

“金の髪を持つものは天からの使い。その者と婚姻し、子をなせば、一族は栄える……、か”
 ジュリアスは、書物から一旦、目を離してそう呟いた。誰が言い出した事かはわからない言い伝えである。初代の王から続くクゥアンの繁栄ぶりに、それを重ね合わせて人々はそう言い伝えたのであろう。金の髪を持つ女を妻にしたジュリアスの父の時代は、天候も安定しており、豊作続きであった。加えて、クゥアンの領土は東の大陸の半分程になっていたから、その言い伝えの信憑性は高まるばかりであった。
 
 ジュリアスが、歴史書をさらに読み進もうとした時、扉を叩く音がし、側仕えが、彼のもっとも信頼する騎士であるオスカーの来訪を告げた。

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