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クラヴィスのサクリアの気配は、彼とはぐれたジュリアスを惹きつけた。 |
細い回廊を進み、ふとクラヴィスのサクリアを感じ、その感覚のままに、ジュリアスは進んだ。やがて見つけた鉄の扉の向こうから、紛れもなくクラヴィスのサクリアが放出されているのを感じ、ジュリアスは扉を開ける。 全てが赤い広間に戸惑いながら、その真中に立ち、サクリアを放っているクラヴィスの側にジュリアスはそっと寄り添った。 クラヴィスのサクリア、紫紺の靄が薄れて、ようやくクラヴィスは瞳を開けた。傍らにジュリアスがいるのを知ると、クラヴィスは少し目を背けた。 「単独で行動してはならぬ……」 ジュリアスの言葉には、これまでのような厳しさは無かった。 「いつもお前の力が必要だとは、限らないからな……それに、今、私がどうなろうと……」 「何を言う! そなたは、まだ闇の守護聖だ。私が詔を告げるまでは。それを忘れるな」 ジュリアスは、険しい表情でクラヴィスを睨み付けた。その視線を避けるようにしてクラヴィスは、ジュリアスから離れ、壁際にゆっくりと歩いた。 「結局、魂の叫びは、この部屋からであったか?」 ジュリアスは、クラヴィスの背中に聞いた。 「ああ」 「それにしてもなんという赤さだ。他の部屋とあまりにも対照的すぎる……」 ジュリアスは、改めて部屋の四方を見回しながら呟いた。 「青では目立つからな……」 クラヴィスは掠れた声で、そう言い、振り返った。 「何が目立つのだ?」 「血が……。それにこの砂漠の中にあっては、この色を見るだけで乾きを感じる」 クラヴィスの言葉に、一瞬戸惑い、直ぐさま、その意味するところを理解したジュリアスは、急に息の詰まるような圧迫感に襲われ、深呼吸をした。 「そういう用途の為の部屋であったか……そなた、鎮魂は終わったのか?」 「いや……まだ……あそこに」 クラヴィスはそう言うと、部屋の一角に歩いて行き、立ち止まった。ジュリアスには、何も無い壁にしか見えない。その前に立って、クラヴィスはじっと俯いていた。またクラヴィスの体から紫紺の靄が滲み出る。 哀しく、そして優しいサクリアだ、とジュリアスは思った。この世の憐れを封じ込めて、一粒の涙にし、大海へと還すような。初めてその闇のサクリアの力を目の当たりに見た時のことをジュリアスは思い出した。 遠い昔、初めて鎮魂の為に見知らぬ星に、降り立った時のことを。クラヴィスと自分、教育係の地の守護聖と三人で……。 |