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 暁生は、全てが終わると後始末をする為にサッと立ち上がった。
「さすがプロだな……オヤジの店の連中とは違う……」
 と寝台に伏したまま緑は、隙のない暁生の所作を見て言った。
「次がありますから……」
「チェッ、味気ないヤツだな……、終わったらとっと帰れっていうのか? まぁいい」
 緑は渋々、シャツを拾い上げてボタンを止めた。

「なぁオリヴィエは、毎夜こんな事をさせられているのか?」
 緑は、皺になった寝台を整えている暁生に尋ねた。
「いいえ、毎夜というわけでは。ただこの部屋から寝姿を垣間見せるだけならば、毎夜かも知れませんが、こんな風に見せるのは、月に一度か二度……特別の客があった時だけです。起きないように薬を仕込みますから、小さい体には負担になるといけませんので」
「本人は知っているのか?」
「さぁ……でも気づいてはいるでしょう。賢い子ですから。あれは」
「お前も好きなんだな、オリヴィエが」
「嫌う者などいませんよ、この館の者は誰も皆、彼を大切にしている」
 無表情だった暁生がほんの少しだけ微笑んだ。が、すぐさままた、伏し目がちな冷たい表情に戻り、彼は汚れたシーツを抱えて出ていった。

 その後に緑も続いたが、如何なるカラクリか、暁生の姿はそこには無かった。緑が、薄暗い廊下を戻り、渡り廊下を越えたところまで来ると、向こうからこの店のオーナー周と、緑の養父、昌がやって来くるのに出くわした。

「なんだ、こんなところにいたのか、何をしている?」
 昌は不機嫌だった。恐らく勝手に酒宴の席を外したのが、面白くないのだろうと察した緑は白々しく嘘を付いた。
「店の造りを見せて貰ってるんだよ、美楽園の改築の参考になるかと思って」
「それで何か収穫はあったかね?」
 周は、酒が程良く回っているらしく上機嫌である。
「ええ、叔父さん、各部屋の扉に花を彫るというのはいいですね、香炉が道しるべになっているのも素敵だ」
「いい息子を持ったな、昌。勉強熱心な事だ」
「緑、上海に帰ったらお前の意見を取り入れてみよう。どうだ、これから義兄さん自慢のオリヴィエを見せて貰いに行くんだがお前も来るか?」
  兄貴分の周にそう言われて、機嫌が直ったのか昌は意味ありげに緑を誘った。

(ふん、香炉の道標が必要なほど美楽園は広くはないぜ、あんな時化た店に香炉を幾つも置いてみろ、煙たくて仕方ない……)
 と思いつつ緑は、笑顔を作る。
「いいや、俺は遠慮するよ、長旅で疲れたし、子どもなんか見たって仕方ないだろう。叔父さん、おやすみなさい、失礼しますよ」
 緑はそのまま振り向かずに歩き出す。

「義兄さん、気にせんでくれ。緑は遊び方もまだ知らん」
「かまわんよ、お前には、とびきりの相手を用意するぞ、暁生といってな、印度人の血が入った綺麗な男だ」
「オリヴィエを、摘みながら食うといい」

 周と昌の会話を背中で聞きながら緑は、ふと気分が悪くなり俯く。
渡り廊下の欄干に手をかけて、そのまま目眩の行き去るのを緑は、ただ待つ。

 夜来香が、今宵限りと放つ芳りに緑は酔う。
 初めて抱いた男の匂いとともに。
 忘れられない夜になると緑は目眩の中で思う。

 
 明日の朝の事は、まだ緑は何も知らない。


終劇

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