俺は、救いを求めるように水夢骨董堂のドアを開けた。オリヴィエとリュミエールが振り向く。
「いらっしゃいま……オスカー無事だったんだね」
と嬉しそうにしたオリヴィエを押し退けて俺は、店の奧のカーテンを開けて、そこに続く部屋に滑り込むように身を隠した。額に滲んだ汗を拭うと、やっと手にしていたモーゼル銃を懐にしまい込んだ。俺の様子を見ていたオリヴィエは、俺の息が整うまで何も言わずに立っていた。リュミエールは水の入ったコップを俺に手渡すと何事もなかったかのように店に戻っていった。店のドアに鍵を掛ける音とカーテンの閉じる音が聞こえた。
「はぁはぁ……す、すまん……」
俺は水を飲み干すとオリヴィエに謝った。
「付けられてたんだね、ヤバイ?」
「ああ……」
俺が話し出そうとするとリュミエールが部屋に入ってきた。
「店は閉めましたよ。落ち着きましたか?」
「オリヴィエ、リュミエール……巻き込むかと思ったが逃げ場がなくて……一応は巻いたと思うんだが」
「いいんだよ……とりあえず座りなよ。私たち何かしてあげられる?」オリヴィエとリュミエールは俺にソファに座るようにすすめると、自分たちも俺の前に腰掛けた。
「しばらく休ませてくれ……全速力で逃げたから疲れた……」
俺がそう言った時に、激しく水夢骨董堂のドアを叩く音がした。俺たちの間に緊張が走る。二人は俺の隠れている部屋を出て店に戻った。俺はカーテンの隙間からそっとその様子を垣間見る。オリヴィエは引き出しから豪華な色石の埋め込んである美しい短剣を取り出すと身構えた。その短剣はフィレンツェかどっかのなんとかいう枢機卿のものだというフレコミの美しい短剣で、当然贋作なのだがオリヴィエが気に入って手放したくないと言っている品だった。一方、リュミエールは壁に掛けてある槍をそっと降ろして構えた。この槍の方は秦の始皇帝の千九百七番目の部下の末裔(筋向かいの金具屋のことらしい)の倉庫に眠っていたものだそうで、八十元はボッタクリだがなかなか質実剛健そうなシロモノだった。
二人が、こうしてそれぞれ武器を手に身構える様は、こんな窮地にあっても俺の心を震わせるほどに美しかった。だがその光景を切り裂くようにドアを叩く音はいっそう激しくなる。「出ないとかえって怪しまれるかも」
オリヴィエは小声でリュミエールに言った。
「わたくしが出ます、オリヴィエは支援してください」
リュミエールはそう言うと、槍をドアの脇にそっと置き、ドアの錠を外した。「申し訳ありません、本日は休みです……」
と幾分、困ったようにリュミエールはドアを開けつつ言う。ドアの向こうに黒地に赤い薔薇模様のあざといチャイナ服を着た女が、恐ろしい剣幕で立っていた。万事窮すだ!
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